スクールカースト
学級集団を構成する生徒たちが、時代とともに変容してきているのは確かであろう。現代の生徒たちは、〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉の総合力としての「コミュニケーション能力」の高低を互いに評価し合いながら、自らの〈スクール・カースト〉の調整に腐心していると見て良い。〈スクール・カースト〉は別名〈学級内ステイタス〉とも呼ばれ、学級への影響力・いじめ被害者リスクを決定し、子どもたちを無意識の階級闘争へと追い込んでいる。ここでは、森口朗の提案を軸に「スクール・カースト」概念を見ていくことにしよう(『いじめの構造』森口朗・新潮新書・二○○七年)。
二十一世紀に入って、教育界から政財界に至るまで、これからの人間に必要なのは「コミュニケーション能力」であると声高に主張するようになった。このことばが毎年、就活学生を恐怖させているのも羞恥の通りである。しかし、この「コミュニケーション能力」の具体が何であるのかという説得力ある論述はなかなか見られない。就活生たちを恐怖させているのもこの言葉の実態がいまひとつつかめないからだ。
森口朗は、これを生徒たちが〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉の総合力と捉えていると分析した。〈自己主張力〉とは自分の意見を強く主張する力、〈共感力〉とは他人を思いやる力、〈同調力〉とは周りのノリに合わせる力である。
更に詳しく言うなら、次のようになろうか。
○自己主張力…自分の意見をしっかりと主張することができ、他人のネガティヴな言動、ネガティヴな態度に対してしっかりと戒めることのできる力。八十年代以降、世論によっても識者によっても政治・行政によっても大切だと喧伝されてきた能力であり、臨教審以来の教育政策の根幹として位置づけられてきた能力でもある。
○共感力…他人に対して思いやりをもち、他人の立場や状況に応じて考えることのできる 力。従来から学校教育では何よりも優先される絶対的価値だと考えられ、リーダー性にとっても絶対的に必要とされ重視されてきた能力(というよりも、これがなければリーダーにはなり得ないとされてきた前提能力)。多くの教師が「いい子」「力のある子」と評価する要素にもなってきた。
○同調力…バラエティ番組に代表されるような「場の空気」に応じてボケたりツッコミを入れて盛り上げたりしながら、常に明るい雰囲気を形成する能力。生徒たちによって現代的なリーダーシップには不可欠と考えられている、現実的には最も人間関係を調整し得る能力。
この三つの総合力を「コミュニケーション能力」と呼ぶ。毒舌タイプの級友にツッコミを入れて逆にオトしたり、おとなしい子やボケ役の子をイジじって盛り上げたりしながら、「場の空気」によって人間関係を調整していく。しかし、その際、相手を、相手の心を決して傷つけてはならない。こうした高度な能力が「コミュニケーション能力」なのである。
この三つの力の総合力を生徒たちが〈スクール・カースト〉(=学級内ステイタス)を測る基準としている、と森口は言うのである。森口はこれをマトリクスとしてまとめ、三つの力といじめ被害者リスクとの関係を示した。そこで分析されているのは、現代の学級が以下の八つのキャラクターによって構成されている、ということである。以下、生徒たちを分類する文言については、堀が少々改めている。
①スーパーリーダー型生徒(自己主張力・共感力・同調力のすべてをもっている)
②残虐リーダー型生徒(自己主張力・同調力をもつ)
③孤高派タイプ生徒(自己主張力・共感力 をもつ)
④人望あるサブリーダー型生徒(共感力・同調力をもつ)
⑤お調子者タイプ生徒(同調力のみをもつ)
⑥いいヤツタイプ生徒(共感力のみをもつ)
⑦自己チュータイプ生徒(自己主張力のみをもつ)
⑧何を考えているかわからないタイプ生徒(自己主張力・共感力・同調力のどれももたない)
これをもとに〈スクール・カースト〉の高低を図示するなら、次頁の【図2】のようになる。「コミュニケーション能力」を構成する三つの要素をその資質として多くもっていればいるほど〈カースト〉は高くなり、その資質としてもつ要素が少なくなればなるほど〈カースト〉は低くなる。〈スクールカースト〉は原則として、この基準で決定されているのだ。そして森口朗は、〈スクールカースト〉が相対的に低くなる「⑥いいヤツタイプ生徒」「⑦自己チュータイプ生徒」「⑧何を考えているかわからないタイプ生徒」にいじめ被害のリスクが高くなると分析した。また、いじめの首謀者となるのは主に「②残虐リーダー型」であり、このタイプの生徒の動きに「⑤お調子者タイプ生徒」が同調することによっていじめが集団化するとも分析したのである。
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