まえがき
みなさん、こんにちは。堀裕嗣(ほり・ひろつぐ)と申します。日々、中学校で国語の授業なんかをしながら、夜は駄文を書き連ねる生活を続けて既に四半世紀が経ちます。国語教育と文学論を語るのが大好きで、でも文学なんてまったく流行らない時代が来てしまって、つまらないな……と感じながら二十一世紀を生きています。僕と一緒に文学を語りながら酒を呑んでくれる人もどんどん少なくなっています。特に教師にはほとんどいなくなってしまいました。もう文学教育に関して理屈を述べる本なんて二度と書けない。そう感じてもいました。
多賀一郎先生と出会ったのは、いまから五年ほど前だったでしょうか。僕が愛知教育大学でセミナーを開催した折、多賀先生が訪ねて来られたのです。少しだけ酒席をご一緒し、そのときは別れました。しかし、年が明けた二月、多賀先生が奥様を伴って北海道に旅行に来た折、僕らは再会しました。いかにも北海道らしい創作おでんの店で私と多賀夫妻と三人で、おそらくは五時間くらいにわたって美味い日本酒を呑みながらおでんをつついたのです。以来、僕らは年に何度も酒席を伴にする仲になりました。お互いに札幌と神戸を行き来しながら、いまでは平均するとふた月に一度くらいは会っているように思います。
僕らが二人で酒を呑んでいると、出てくる話題は「文学」と「教育」と「文学教育」のことばかりです。僕は公立中学校、多賀先生は私学の小学校。年齢は僕のほうが十歳ほど若いでしょうか。こんなにも歩んできた道が違うのに、お互いがお互いを知り合うなかで、これまで興味をもって見てきたものにあまりにも共通点が多いことにお互い驚かされました。お互いがお互いをしゃぶり尽くすような酒席が何度かもたれ、それでもしゃぶり尽くした感がまるでない……そんな関係が続いております。まあ、いつもしゃぶり尽くす前にお互いにべろべろになってしまって、足許をふらつかせながら帰路に就くというのがほんとうのところなのですか……(笑)。
昨年の秋も深まったころのことです。僕は表層的な国語教育の本を一冊上梓し、それがまずまず売れているのに気をよくしながらも、ほんとは国語教育ってこんなもんじゃないよなあ……と感じていました。もっと言語と文学についてある程度深いところまで主張する本を書きたいなあ、とも感じていました。でも、いまどき、そんな本は求められていないしなあ、だいたいそんな本を出してくれる出版社自体が見つからないよなあ、と車の中で煙草を吸いながら一人ごちていました。
ふと、多賀先生の顔が浮かびました。
「きっと、多賀さんなら同じ想いを抱いているのではないか……」
そんな予感がしたのです。僕は取り敢えず、多賀先生にメールを打ちました。
「多賀さん、一緒に国語教育の共著書きません?出版社はできてから探すってことで。たとえ出版社が見つからなかったとしても、二人にとって書くこと自体が意味をもつようなものを。」
確かこんな文面だったように記憶しています。間を置かず、多賀先生からは「そりゃいい。おもしろい遊びになるね」というような返信がありました。こうして道楽として取り組み始めたのが本書なのです。
多賀先生があとがきにも書いていますが、一ヵ月ほどに及ぶやりとりはとても楽しく、この本はすぐにでき上がってしまいました。第一章は「対談」の形式を装っていますが、実はFBのメッセージで毎日少しずつ、しかもお互いに酔っぱらいながらのやりとりを対談形式に直したものに過ぎません。要するに、実際に会って直接話したやりとりではないわけです(笑)。
「これ、対談形式にして本に入れようよ」
そんな酔っぱらいのノリによって第一章ができたと言って間違いありません。僕と多賀先生にとって、実際のところ、この本は仕事というよりも日常の道楽に過ぎないものでした。
しかし、でき上がってみると、それなりに僕らの主張が核心がよく出ている本に仕上がりました。酔っぱらっていてもこのくらいの主張はできるものなんだなあ……と自画自賛もしています。僕も多賀先生も自画自賛が大好きな自己チューおじさんですから(笑)。
幸い、最初に原稿を持ち込んだ黎明書房が刊行してくれることになり、この原稿は陽の目を見ることと相成りました。黎明書房の武馬久仁裕社長、編集の伊藤大真くんに伏して感謝申し上げる次第です。こんな道楽を形にしていただいて有り難うございました(笑)。
太田裕美/始まりは〝まごころ〟だった。を聴きながら……
二○一五年四月十九日 自宅書斎にて 堀 裕 嗣
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