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〈成長〉より〈成熟〉を目指す

四十代には〈成熟〉が求められます。

〈成長〉ではありません。あくまでも〈成熟〉です。

このように言うと、「じゃあ、〈成熟〉と〈成長〉はどう違うんだ、説明してみろ」ということになるわけですが、残念ながら私もうまく説明できません。しかし、敢えて説明しようと試みるなら、〈成長〉とは〈できること〉を増やしていくこと、〈成熟〉とは〈できないこと〉を意識しながら〈確実にできること〉を実行していくことと言えるかもしれません。前者はがむしゃらに進むことがあり得ますが、後者は確実に機能させることを重視する、そんな違いがあるように思います。

例えば、職員会議である提案がなされたとします。〈成長人〉はその提案が実現したときのメリットを考えます。〈成熟人〉はメリットはもちろん考えるのですが、デメリットを考えることにより多くの労力をかけ、メリットとデメリットを比較しながらその提案を値踏みします。〈成長人〉を理想主義者、〈成熟人〉を現実主義者と呼ぶこともできるでしょうし、〈成長人〉は原理主義的であり、〈成熟人〉は機能主義的であるという言い方もできるでしょう。いずれにせよ、〈成長人〉はひた走る快活な人間に見えますし、〈成熟人〉は落ち着いた慎重な人間に見えます。

ただし、〈成熟〉とはこの国の年配者によくいるなんでも取り敢えず時期尚早と先送りする先送り主義者とは違います。先送り主義者はいまこの瞬間に揉めることを割けているのであって、現実になにかを機能させようとしているわけではありません。そうではなく〈成熟人〉は何かが提案されたときに、それをちゃんと機能させるためにどういうデメリットがあるかをよく考え、そのデメリットを取り除くにはどのような手立てとセットで行うよいのかを考え、実行する段階に至るまでにはどのくらいの時間と労力とお金がかかるのかを考え、取り敢えず今回は先送りにしながら提案者のモチベーションを下げないために取るべき手立てを考え……と、こういうことを考えられる人のことを言います。これだけ言えば、〈成熟人〉が先送り主義者とはどれだけ異なる生態をもっていることかがおわかりになるかと思います。

四十代は、こうした意味で〈成熟〉が求められるのだということです。

さて、職員室には少しでも自分に〈できること〉を増やしたいと思う〈成長人〉がたくさんいます。彼らは理想に燃えて、職員会議を初めとする各種会議においてさまざまな提案をしてします。そうした提案に反対するのではなく、メリット・デメリットを比較して少しでもメリットが大きいと判断すれば、即座にそれを実現する手立てを考える。それが四十代の仕事の在り方です。

ときにはその提案のデメリットを指摘するとともに、そのデメリットを最小限にするための手立てをセットした修正案を提案し返す。ときにはその提案の早急な実現にどのようなデメリットがあるかを指摘するとともに、いつまでにどのようなプランでそれを実現していくのかを提案し返す。ときにはその提案が多くの反対に遭ったときに提案した若者に同じ目的を達成するための別のアイディアを提案し返す。常にこういう動きをしている先輩教師がときに若手・中堅の提案に反対したとしても、彼らは○○先生が反対するのならと納得するものです。もちろん、その反対の理由については公の場では大枠を、また裏では個人的に細かく、彼らが納得するまで説明してあげなければなりません。

職員会議は必ずしも正しいことが通るとは限りません。正しさなどというものは人それぞれです。それどころか、時代や状況が変われば正しさもまた変わってしまうのが世の中なのです。そのときには正しいと思ったことが後に正反対の評価を受けることはいくらでもあります。正しさは歴史が決めるのです。

職員会議はなにが正しいか出決まるのではなく、だれが言ったかで決まるのです。そして提案を通せるその「だれか」、それはだれもが〈成熟人〉と認めている人なのです。

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