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転勤の効用

転勤した。

転勤すると、前任校を基準に「この学校はおかしい」と息巻く人が多い。周りから“仕事ができる”と目されている人物に多い。もっと言うなら、仕事に対して“イケイケ系”のスタンスをもっている人に多い。

“イケイケ系”はその職場にうまくはまれば力量を発揮するけれど、うまくはまらなければ「この学校はおかしい」といつまでも言い続ける。職員会議で改革案を提出し続ける。古くからいる人間にそれがおもろかろうはずもない。結果、人間関係に軋轢が起こる。

こういう人物が赴任1年目から転勤希望を出し、1年から数年で転勤してしまう事案をたくさん見てきた。次の職場にうまくはまれば、そこでそれなりの仕事をする。「自分には力量がある」というアイデンティティを確保できる。しかも数年で去ることになった職場に対しては、「やっぱりあの学校がおかしかったのだ」と自分を納得させられる。

要するに、“イケイケ系”は仕事のアベレージが低い。

私は転勤すると、とにかく1年間は大人しくしている。与えられた仕事を粛々とこなし、職場のキーマンの言うことに従い、判子押しや文書整理といった雑務にも積極的に関わり、職員室にかかってきた電話にさえ率先して出る。とにかく、文句を言われないスタンスを確保する。ルーティンを淡々とこなすわけだ。

読者の皆さんは私のこのスタンスを職場の信頼を得たいがためだと思われるかもしれない。しかし、そうではない。私は文句を言われない最低限の仕事を大人しくこなしながら、実は新しい職場を観察し分析しているのだ。

新しい職場に移ると、私だって違和感を感じることが多々ある。前任校を規準に「この学校ヘンだな…」と思うことから、私だって自由ではない。しかし、私はそうした違和感が自分を大きく成長させてくれることを経験的によく知っているのだ。

新たな学校で新たな仕事を覚えるとか、新たな人間関係のなかで新たな人と出会って成長するとか、そういうことを言っているのではない。新たな勤務校で違和感を感じる自分と向き合い、前任校との仕事の作法の違いを分析する。すると、前任校と現任校の作法の違いから、それぞれのメリット・デメリットが見えてくる。前任校時代のデメリットに自分はこれまでなぜ気づかなかったのか、自分にかかっていたバイアスを発見することができる。しかもその発見は次から次へとやってくる。小さなコトから大きなコトまで一日に幾つも、1ヵ月を過ぎた頃には数え切れないほどの自らに巣くうローカリティを発見することができる。自分が悪しきこだわりや悪しき思い込みに、そうと気づかぬままに囚われていたことに思い至る。そこから自分のなかに理論が産まれ、思想が産まれる。私は経験的にこの構造をよく理解している。

だから私は、割と転勤が好きだ。

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