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クラゲのように生きる

男性の三人に一人が、女性の四人に一人が生涯独身を貫くという時代になりました。職員室を見渡してみても、四十代の独身者は男性・女性を問わずけっこうな数がいるものです。男性独身者の四十代はまだ体力もありますから、パチンコに行ったり飲みに行ったりとそれなりに楽しむことのできる年代ですが、女性独身者にとっては四十代はかなり深刻な時期のようです。私は時を隔てて、四十代半ばの複数の独身女性教師から「もういつ死んでもいいなってよく考えるのよね」という言葉を聞いて驚いたことがあります。彼女たちはいまも生きていますからもちろん本気で積極的に死のうと考えていたわけではありません。しかし、「もういつ死んでもいい」という言葉が出るほどに今後の人生に楽しみを見出せないとしたら、やはり深刻という他はありません。

もう一生独身なのだろう。子どもも現実的にはもてないだろう。老後は一人淋しく過ごすのだろう。仕事に充実感を感じるわけでもない。週末に女友達とランチする程度のことしか楽しみがない。こんな生活をあと数十年続けることに何の意味もない。だから自殺しようとまでは思わないけれど、いつ死んでもいいのよね……。こういうことなのだろうと思います(これは私がある居酒屋のカウンターで飲んでいた折、隣にいた四十代と思しき女性二人がしていた会話を盗み聞きしたものを要約しました)。

さて、結婚とか子づくりの限界性については私にはわかりませんが、こと仕事についてならばこういうことが言えると思います。

男性でも女性でも四十代ともなれば、二十代・三十代の頃のように一生懸命にならなくてもそれなりに「仕事がまわせる」という状態になります。これをすればこうなる、あれをすればこうなる、これをしても状況は変わらない、これをすることにはリスクが伴うから安全策を採ろう、毎日そういうことが見えている状態で仕事をしています。しかもちょっと仕事が立て込んだとかちょっと最近さぼってしまったとかがあって仕事が溜まってしまったとしても、時間が自由になりますから二、三日頑張って残業すれば処理できてしまいます。要するに仕事に大きくやり甲斐を感じる機会もなければ、深刻な状況に陥ることもないわけです。要するに仕事に変化がなくなるわけですね。

一部に管理職を目指してバリバリという女性教師も少数散見されますが、多くの女性教師は出世競争に参加する気など毛頭ない。八○年代に男女雇用機会均等法が施行され、一時期はキャリアウーマン志向も生まれましたが、そうした機運もすっかり落ち着いてしまっている。仕事もバリバリ、円満な家庭とも両立…のようなイメージを若い頃にはもっていたけれど、いまはその一方の要素が絶望的に消え失せようとしている。生活には困らないだけの収入もあるし安定もしている。教職は本来やり甲斐のある仕事であり、やろうと思えば限界のない仕事であることはわかっているけれど、そこまで時間と労力をつぎ込んでもコスパが合わない。これが生活に変化がなくなる思考形態のステレオタイプです。

さて、と…。どうしましょうか。婚活しますか? それとも思い切ってシングルマザーでも目指しますか? まさかね。まだまだ教師は聖職イメージ。そうもいきません。結局、毎日なんとなくドラマ、なんとなくフェイスブック…。週末にはなんとなくランチ…。誘われればちょっと高級なイタリアン…。そのくらいの収入はありますからね。

あなたはいま、思い切って生活を変えるか否かの瀬戸際です。人生は〈先が見えない〉方がおもしろくなります。恋愛だって仕事だって遊びだってゲームだって、先が見えたらなんのおもしろみもないのです。人生も同じです。変えようと思えば、〈先の見えないもの〉へと突き進んでいくしかありません。

仕事なら管理職を目指すとか、これまでやったことのない仕事に就いてみるとか、学年イチの問題児や学校イチのクレーマー保護者を担任してみるとか……。どれもいやですよね。私も勧めません(笑)。

酒井順子やジェーン・スーでも読みながら、お茶でもしてみてはいかがでしょうか。

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コメント

堀さん、ジェーン・スーさんをご存じなのですね。びっくり!!

投稿: nakap | 2015年3月 6日 (金) 05時42分

知ってますよ。もちろん。すごいおもしろいもの…。そう言えば、能町みね子っていうおかまさんもお勧めですよ~。

投稿: 堀裕嗣 | 2015年3月 7日 (土) 10時47分

能町みね子さんて知らなかったので、早速3冊ほど注文しました。楽しみ~。

投稿: nakap | 2015年3月10日 (火) 06時09分

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