職員室カーストを意識する
スクールカーストが話題になって数年が経過しています。いまでは既にかなり普及した言葉になっていますからご存知の方も多いと思いますが、スクールカーストとは児童生徒集団のなかに無意識的に巣くう階層意識のことです。私がスクールカーストという言葉を知ったのは森口朗さんの『いじめの構造』(新潮新書)でしたが、以来私はずっーと〈職員室カースト〉について考えています。
当然のことながら〈職員室カースト〉の最上位は校長とは限りません。むしろ校長がカーストの最上位にいて学校運営をトップダウンで進めていたら、きっと学校のさまざまなところに軋みが出るに違いありません。それは市長の方針で学校をトップダウンで運営しようとし、民間人校長を多く導入してさまざまな問題を引き起こしているある大都市を見ればよくわかるはずです。教頭が包み込むようなタイプでカーストトップにいるのが理想なのかもしれませんが、そういうキャラクターの教頭も滅多にいません。私の二十数年の経験でもそういう教頭は一人しか出会ったことがありません。多くの場合、教頭というのは四十代後半から五十代前半、職員を包み込むようなキャラクターにはまだまだ成熟の度合いが足りない年代です。私は原理的に無理なのだろうと感じています。
〈職員室カースト〉は地位では決まりません。ですから、必ずしも校長や教頭のカーストが高いということはありませんし、各学年のカースト最上位者が学年主任であるとも限りません。ですから、地位のないヒラ教員が「この学校は○○さんが支えている」という評判になることもありますし、中堅の生徒指導を得意としている教師が「あの学年は○○さんあっての学年だ」という評価を受けることも当然あり得るわけです。
では、〈職員室カースト〉はどのように決まるのでしょうか。それはおそらく、森口さんがスクールカーストの分析で施したのと同じように、〈コミュニケーション能力〉で決まるのだろうと思います。〈コミュニケーション能力〉とは、〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉の総和で量られます。私は〈コミュニケーション能力〉とは、実は「人間性」とか「徳」とかといったものに近い概念なのではないかと感じています。
〈自己主張力〉とは自分の意見をしっかりと言えるということです。どれだけ円滑なコミュニケーションを重視し、人間関係に軋轢を生じさせないことを重視するのが日本人の特徴と言っても、事は仕事ですから言うべきことを言わない人はカーストが高くはなりません。しかも、最近は旧態依然と揶揄される学校でさえ、世の中の動きに合わせて毎年のようにシステム変更・システム調整を求められる時代ですから、それに対応するアイディアを主張することは頼り甲斐のある教師の絶対条件とも言えます。
〈共感力〉とは思いやりをもっていたり周りに優しかったりといった資質です。自らの正しさだけを主張して猪突猛進に突き進むのでなく、その企画を進めていくにあたって周りの人たちに配慮しながら、みんなが困らない形で進めていける力です。この資質を持たずに〈自己主張力〉だけでぐいぐい仕事を進めていくタイプは周りから怖れられ、上司に評価されることはあっても職員室で信頼されることはあり得ません。それはそうです。周りの先生方から見れば、この人の提案に従えばどんな面倒なことをやらされることになるかわからないわけですから。そんな人に信頼を寄せろという方が無理な話です。
〈同調力〉とは周りの先生方のノリに合わせられる、いわば「ユーモアを解する力」といえばわかりやすいかもしれません。〈自己主張力〉があり〈共感力〉もあるという先生は確かに尊敬されます。しかし、まじめとか誠実とかいった評価は受けられるものの、一緒にいたい、一緒に仕事をしたいと思ってはもらえないものです。周りの同僚たちと的確に身いじったり適切にいじられたり、そうした関係を結べる教師がやはり衆目を集めるのです。〈同調力〉が高いということは、ユーモアの質には世代差がありますから、「自分だけのユーモア」ではなく、それぞれの世代に応じた「相手のユーモアの質」を理解するという資質をもっていることをも意味します。そうした意味では、〈共感力〉は周りのネガティヴな感情を理解し調整する力、〈同調力〉の方は周りのポジティヴな感情を理解し調整する力とも言えるかもしれません。
こうして考えてみると、すべての管理職がこれら三つの力を総合的にもっているわけがありませんし、主任クラスがもっているわけでもないということがわかるはずです。一般に年齢が高くなれば〈共感力〉が高くなる傾向はありますが、若いからと言って〈自己主張力〉や〈同調力〉が弱いということも言えません。むしろ〈同調力〉をもっている人というのは、子どもの頃からそういう力を発揮し高めてきたという側面があります。担任教師が子どもより〈同調力〉が低いという事例は世の中にたくさんあるはずです。
四十代になると学年主任になったり生徒指導主事になったり教務主任になったりといった地位や立場を得ることが多くなります。それぞれの立場で仕事を進めていく場合に、地位や立場を笠に着てトップダウンで仕事を進めようとするのではなく、自分が〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉のどの力に優れているのかという自己キャラクターをよく分析・吟味し、自分に足りない力をもっている若手・中堅に信頼を寄せながら、言葉は悪いのですが「使いこなす」という視点が必要になるのです。こうした視座で仕事を身進めていける人こそ、実は〈職員室カースト〉が高くなっていくのです。
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