« 表記 | トップページ | 口形 »

場(描かれる場所・場面)

〈設定読み〉の第三は〈場〉です。物語によっては描かれる場面の位置関係や遠近などについて明らかにしないと場面設定を読み取れないという場合が少なからずあります。東西南北のどの方向に何が見えているか、或いは対象を見下ろしているのか見上げていのかという、主人公に見えている情景の在り方を明らかにすることが必要な場合もあります。主人公が場所を移動したことは子どもも理解するのですが、場所が移動したことによって主人公のいる位置の高さが変わり、見える風景が一変するということはよくあることなのです。

〈場〉の特徴を整理するには、登場人物の感じている〈五感描写〉に留意する必要があります。即ち、情景描写としてさり気なく描かれている〈視覚描写〉〈聴覚描写〉〈嗅覚描写〉〈味覚描写〉〈触覚描写〉です。「遠くに海が見える」とか「遠くに波の音が聞こえる」とか「どこからか花のような甘い香りがしました」とか「ざらざらとした冷たい風が吹いてきました」とか、こういった描写は、登場人物のいまいる場所の常体や雰囲気を読み取るべき描写と言えます。

また、『故郷』(魯迅作・竹内好訳・中三)の冒頭に見られるように、「空模様が怪しい」「鉛色の空」「わびしい村々」といった視覚描写、「冷たい風がヒューヒューと音を立てて吹き込んできた」といった聴覚描写や触覚描写といった情景描写が同時に描かれることで、主人公に「寂寥の感」を抱かせるというような、〈場〉の設定が物語の主題にかかわるような重要な要素となる場合さえあります。

〈設定読み〉で大切にされるべきは決して〈人物〉ばかりでなく、文学的文章の〈登場人物〉はみな、〈時間〉や〈場所〉との関係のなかで生きているのだと読み手は肝に銘ずる必要があります。

|

« 表記 | トップページ | 口形 »

書斎日記」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 場(描かれる場所・場面):

« 表記 | トップページ | 口形 »