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語彙

人間は世界を言葉を認識しますから、〈語彙〉を増やすことは世界認識を広げることにつながります。その意味では、国語教育の核は〈語彙指導〉であると言っても過言ではありません。

〈語彙指導〉の一般的なイメージは「辞書を引くこと」です。古くから全国的に「辞書引き」の活動も流行しており、国語教室経営の核としている教師も少なくありません。辞書を引くことによって〈理解語彙〉をできるだけ増やし、実際にそれらを自分の表現に用いることで〈使用語彙〉にまで高めて行くという発想が「辞書引き」活動にはあります。しかし、〈語彙指導〉が「辞書を引くこと」とイコールであると考えるのは、間違いとは言わないまでも国語教育としては偏った学力観に基づいていると言わざるを得ません。国語教育には重要な指導事項として〈言語感覚〉が挙げられますが、〈言語感覚〉には文脈に即して〈理解語彙〉にない語句について「こういう意味ではないか」と想像しながら把握していくという活動が必須なのです。

日本語は〈真名(まな)〉(=漢字)と〈仮名〉でできています。漢字は言うまでもなく「表意文字」ですから、漢字の意味を知っていれば熟語の意味を想像するということができます。それを語義について漢字の表意に基づいて想像することも思考することもなく、一足飛びに辞書に頼るという在り方は〈語彙指導〉としては不十分です。しかも、辞書的な語義と、個々人が抱いている日常的で観念的な語義とでは、その指し示す広さが異なります。辞書は「赤」を「血の色」と説明しますが、私達は「赤」に対して「血の色」以上のさまざまな観念を付随させているはずです。むしろ、一般的に平仮名表記される和語(例えば「まほろば」「うたかた」など)を調べるときにこそ、「辞書引き」が全面的に機能すると言えます。

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