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ワークショップ型授業で活用させる

二○○○年代に入って「ワークショップ型授業」の必要性が叫ばれるようになりました。子どもたちに体験的に学ばせることによって、学習意欲を引き出すとともに実感的に指導事項を身につけることができるというわけです(『ワークショップ型授業で子どものやる気を引き出す』上條晴夫・学事出版/『ワークショップ型授業で国語が変わる』上條晴夫・図書文化など)。

いわゆる「ワークショップ型授業」は、次の三つの段階で構成されています。

【 説 明 】 体験型学習のフレーム、ルールを説明する。
【 体 験 】  フレーム、ルールに従って体験させる。
【振り返り】  体験によってどのようなことを学んだか、気づきや発見を交流させる。

時間配分としては、私の経験から〈説明〉に一割、〈体験〉に六割、〈振り返り〉に三割が理想的だと思います。もちろん固定的なものではなく、あくまでも目処に過ぎません。

「ワークショップ型授業」を構想するためには、それだけ時間をかけて体験する価値のある〈ワーク〉が必要になります。例えば、「ディベート」や「ペア・インタビュー」といったある程度の規模をもつ学習ゲームや、「グループ・ディスカッション」や「ワールド・カフェ」といったあるテーマに基づいて交流するためのルールのはっきりした創造的・対話的コミュニケーション形態です。こうした大規模なゲームやコミュニケーション形態を体験させることによって子どもたちはゲームやコミュニケーションに熱中し、知らす知らずのうちに既習の言語技術を用いてコミュニケーションを図ることになります。

〈説明〉→〈体験〉→〈振り返り〉という「ワークショップ型授業」の基本構成は、こうした時間的には三十分程度かかるような言語活動体験を中心に置き、そのフレームやルールの〈説明〉と体験による気づきや発見の〈振り返り〉とで挟み込む一時間を意味しています。もちろん、「ディベート」のように大規模な学習ゲームになると、一時間いっぱい〈説明〉した上で数時間かけての〈体験〉し、録音した音声や録画したビデオを見ながら〈振り返り〉を行うという大単元の構成もあり得ます。

「ワークショップ型授業」の実践者の多くは、子どもたちに一時間かけて体験する価値のある学習活動をと、ゲームの開発や交流の題材づくりに腐心しますが、最も大切なのは〈ワーク〉ではなく、むしろ〈振り返り〉です。もちろん、〈ワーク〉自体が子どもたちが熱中するようなおもしろい〈ワーク〉でなくては「ワークショップ型授業」が成立しないのは確かです。しかし、それを成立させることはあくまで〈方法〉であって、〈目的〉はその〈ワーク〉においてどのような気づきや発見があったかを語り合うことにこそ学習機能があるのです。ここを勘違いしてはいけません。

〈振り返り〉は私の場合、小集団での〈振り返り〉や学級全体での〈振り返り〉など、要するに集団での〈振り返り〉の後に、必ず個人での〈振り返り〉をさせることが大切だと考えています。指導事項としての言語技術も、学習意欲としての関心・態度にしても、国語学力は子どもたち個々に身につかなければ授業とはいえません。集団でよりよいものをつくったという経験は大切ですが、それは特別活動や総合的な学習の時間ならばともかく、国語の授業の目標としては成り立ちません。その意味で、最終的には必ず個人による〈振り返り〉をさせることが大切です。多くの場合、それは学習作文(=今日のこの時間で何を学んだのか、何に気づき何を発見したかを、授業の最後に短作文で書かせる作文形態)を書かせることが効果的です。例えば、〈ワーク〉の体験が終わって〈振り返り〉に十二分間を使えるとしたら、八分間をグループでの〈振り返り〉に、それをもとにして残り四分間を個人で〈振り返り〉の作文を書く、といった流れです。このように〈振り返り〉を設定すれば、他者の観点を学ぶこともでき、更に個人で自らの学びも確認できるということになるのです。

さて、「ワークショップ型授業」と聞くと、多くの読者は「話すこと・聞くこと」領域における大規模な学習ゲームを想定するのではないでしょうか。或いは、「読書へのアニマシオン」や「ペア・グループ学習」といった、教育界にある程度普及している提案型実践を想定する方も多いかもしれません。いずれにせよ、日常の授業とは少々距離のある、大きな活動をイメージしがちです。しかし、指導事項を明確にもち、言語技術教育や言語感覚教育をしっかりと意識していれば、「ワークショップ型授業」は日常実践とつながったものとして、また気軽に導入できる授業形態として効力を発揮するようになります。

例えば、ある物語を音読技術(第七章を参照)を中心に学習したあとに、四~六人の小集団をつくって、その物語からある場面(一~二頁程度)を選んで「群読」を考えさせる。「群読」のバリエーションを教えるとともに「群読」を考えるのに一時間、練習時間を少しとった後に発表会、小集団での〈振り返り〉と個人での学習作文とで一時間。これならば気軽にできるのではないでしょうか。この授業は、事前に音読の言語技術を学習しているが故に、その後の「ワークショップ型授業」が事前の学習の定着機能をもつ学習として位置づいているのです。

例えば、「主題の読み取り方」(第六章の言語技術15を参照)として、主人公が中心事件を介して学び成長するという構造を学んだとしましょう。その主人公の学びこそが主題であるというわけです。この構造を初めて教えるときには、まずは既習の教材を用いるのが効果的です。たとえば私は、中学一年生で教えるときにも、「おにたのぼうし」や「わすれられないおくりもの」といった小学校二・三年生の教科書教材を使います。そうした教材でこの構造を教えた上で、四人グループを十グループつくり、小学校四~六年生の物語教材を与えます。教材は一つの教材について二グループずつ、つまり、十のグループがあれば五つの教材を用意します。こうしてその与えられた教材から、主人公の中心事件を介しての学びと成長の構造を読み取らせ、主題を発見させるという小集団学習を行います。これが二十五分程度。その後は、同じ教材の主題を読み取った二つのグループ、計八人が集まって十分程度の〈振り返り〉を行い、更に五分程度で〈学習作文〉を書く、という流れです。これも事前の言語技術指導とその後の「ワークショップ型授業」とが、指導事項でがっちりと結びついている例といえます。

新しい提案というものはなんとなくとっつきにくく、実践するのに臆してしまいがちです。しかし、多くの場合、新たな提案は学習の〈方法〉であって、〈目的〉ではありません。指導事項を明確に意識してそれに基づいた学習活動を仕組む(本章「授業づくりの原理4」を参照)ということを意識していれば、新たな提案の在り方を自分なりに工夫することで効果的に取り入れることができるのです。

既に指導した言語技術を〈活用〉させることを〈目的〉にしたとき、「ワークショップ型授業」はこれ以上ないという効果を発揮する授業形態ともいえるのです。

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