時間限定の原理
毎日の退勤時間は何時ですか? まちまちだよ……なんて答えてはいけません。平均すると何時くらいでしょうか。七時なら早い方。平均八時。遅いときは十時なんてこともある。そんなことになっていませんか?
どのくらい家に仕事を持ち帰っていますか? そのときどきだよ……なんて答えてはいけません。週に何回くらい持ち帰り仕事をしているか。仕事が終わらなくて公務がどれだけ土日を浸食しているか。そんなこんなをちゃんと考えてみるのです。
自分の時間は自分のもんだ。他人にあれこれ言われる筋合いはない。そんなことを思っていませんか? ほんとうにあなたの時間はあなただけのものなのでしょうか。奥さんや旦那さんはあなたとの団欒のときを過ごしたいと思っていませんか? 残業と休日出勤がなければ彼氏や彼女と少し遠出ができるのではありませんか? あなたのお子さんは休日にあなたはいないものだと思っていませんか? そして何より、あなたのお父様やお母様はあなたに会いたい、せめて電話ででも話したい、そう思っているのではありませんか? 残業や休日出勤がなければ、それらは実現するのではありませんか? そして、スポーツに汗を流したり趣味に興じたりする時間さえ生まれるのではありませんか?
そして実は、これが最も大切なことなのですが、残業や休日出勤に疲れ切っているあなたよりも、しっかり休み、しっかり遊んだ元気なあなたの方が、担任している子どもたちにも良い影響を与えるのではないでしょうか。それを考えたことがありますか?
なんのために残業しているのでしょうか。自分の土日を犠牲にしてまで仕事するのはいったいだれのためなのでしょうか。あえて厳しいことを言えば、それは子どもたちのためなんかではありません。すべて自分のためです。自分自身のためなのです。自分だけ早く帰るのは周りの目が気になるからはばかられる。例えばそんなネガティヴな理由です。こんなに遅くまで仕事している自分は子どもたちを第一を考える素晴らしい教師だ。例えばそんな自己顕示欲が理由です。他にすることもないから土日は取り敢えず学校に行くことにしている。なぜ、ご両親に会いに行かないのですか? ご両親はあなたが来るのを心待ちにしているではありませんか。どれもこれも自分自身の勝手な言い分なのです。自己満足なのです。エゴなのです。あなたは「仕事人間」気取りのエゴイストなのです。
そうは言っても仕事が終わらないんだから仕方ない。そんな声が聞こえてきそうです。最近の学校は事務仕事が多くて、みんな多忙を極めている。一所懸命に仕事をしても終わらないんだから残業するしかない。こんなに教師の仕事を増やしている教委が悪い。行政が悪い。政治が悪い。世の中が悪い。そんな愚痴も聞こえてきそうです。でも、ほんとうにそうでしょうか。あなたには勤務時間中になんとなく疲れてボーッとしていたり、必要な書類をあちこち探し回ったり、どう考えても必要のないことにこだわって調べ物をしたり、教材づくりに必要だからと開いたインターネットを見始めたついでに関係のない記事を読みふけったり、お茶を飲みながら同僚と雑談していたり、そんな時間がありませんか? ましてや十九時をまわった頃からプロ野球の動向が気になってテレビを眺めたり、新聞を読みながら最近の事件について同僚と愚痴ったり、給湯室にお茶をいれに行ったついでに女三人集まっておしゃべりに花を咲かせたり、そんなことをしているのではありませんか? これらの時間をなくしたら、さあ、何時に帰れるでしょうか。
いつか効率的に仕事をこなせる自分になれる。いつか残業や休日出勤をしなくても仕事をまわせるようになる。自分はまだ成長が足りないからこくんな状況だけれど、仕事を覚えればちゃんとやれるようになるさ。そんなことをしているのではありませんか。思っていませんか? でも、私は確信をもって言いますが、あなたにそんな日は生涯訪れません。自分が躰を壊したり、子どもに手がかかるようになったり、親の介護が始まったりして、ただ残業や休日出勤ができなくなるだけです。そして、勤務時間だけでは仕事を終わらせることのできないあなたは周りの同僚に迷惑をかける人間になってしまうのです。そういう日が確実にやって来ます。
あなたにとって一番の大きな問題は、実は仕事が多いことでも仕事が遅いことでもまだまだ仕事の力量が足りないことでもありません。あなたの一番の問題は、時間が無限であるかのような生活を送っていることなのです。
私は二十一世紀に入ってから、定時きっかりに退勤することを旨としています。生徒指導や保護者対応があったり会議が延びたりしたときにはもちろん残りますが、それ以外は定時に退勤します。仕事の時間が五時までしかないと決めれば、五時までに仕事が終わるように工夫するようになります。今日の提案文書を今日つくるなんてことは私にはありません。今日の提案文書は先週のうちに完成して印刷もしてあります。今日つくっているのは二週間後に使う文書です。教材研究は一ヶ月先のことに取り組んでいますし、半年後の行事のイメージももう頭のなかに描き始めています。時間を区切ることによって、こういう仕事の仕方になるのです。こういう仕事の仕方にせざるを得なくなるのです。
あなたは五時以降や土日を最初からあてにする人間に堕落しているだけなのです。
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