裁きの場に立たせよ!
授業において意見交換の末に対立が生まれることがあります。どちらも一歩も譲らず、片方が意見を言えば、もう片方が言い返す。5往復も応酬が続くと、両者共に意地を張り始めて、そのまま続けても決着がつきません。
こんなとき、教師は盛んに反論し合う二人を交互に指名してなんとか決着させようとしますが、既に二人とも自分の意見へのこだわりが大きいために、なかなか意見が深まるということがありません。周りの子たちもなるほどなと二人の意見を聞きながらも、この対立の決着はつかないなと考え始めます。
このとき、実は対立し意見を言い合う二人にとっても、周りで訊いている子どもたちにとっても、授業は膠着状態に陥っています。既に思考の深まりの可能性が薄くなっているのです。
次第に教師の側もこれ以上続けても無駄だなと思うようになります。「よし。それじゃあ……」と教師が間に入って整理しようと試みたり、話し合いをそこで打ち切って教師が答えを言ってしまったりということになります。
しかし、これでは対立している二人は納得しません。周りの子たちにもこの対立が有意義に働くこともありません。ただ、不毛な対立だったのだなという印象が残るだけです。
こうした場合には、次のように問うのが定石です。
「よし。一度、観点を変えて、みくんなに訊いてみよう。いまのAくんとBさんの議論、どっちがみんなにとって説得力があっただろう。Aくんだと思った人はノートにAくんと、Bさんだと思った人はノートにBさんと書いて、その理由を『~だから』の形で短く書いてみよう。」
こう言って、目先を変えるのです。AくんもBさんも自分が正しいと思っているだけに、みんなにとってどちらが説得力があったのかに注目します。
その後、分布を取って5人程度に説得力の理由を答えてもらいます。こうすると、その後の意見は、AくんもBさんも互いに相手を説得しようとするのではなく、みんなに説得力のあるような言い方をしなければという意識が働くようになります。周りの子どもたちにも、二人がそういう意識で話すようになったので、しかもそうなったのは自分たちが裁いたからだという意識が働くので、しっかりと二人の意見を聞かなければならないという責任意識が生まれます。これらの意識がこれまでの対立的な話し合いを一気に有意義なものにしていくのです。
このようなやりとりも、「学習意欲の持続性」を促す有効な手段です。教師が出て行って断罪するのではなく、周りの子どもたちを裁きの場に立たせることによって、そのような環境を教師がつくってあげることによって、教室全体に改めて意見交換への関心を喚起するのです。
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