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教師らしくなりたい?

ある年、僕が学年主任をしていた年の一学期のことである。初めて担任を経験する隣のクラスの女の子が子どもとのちょっとした言葉の行き違いで落ち込んだことがあった。彼女がメールで相談してきたので、それに応えてやりとりをしているうちに、こんな言葉が送られてきた。

「いつになったら教師らしくなれるんでしょう……。」

僕はすぐに返信した。

「そんな馬鹿なことを考えるんじゃない。教師らしいお前なんて目指すんじゃない。目指すべきはお前らしい教師だ。お前が教師に近づくんじゃなくて、教師という仕事をお前の方に引っ張ってくるんだ。そうじゃないとうまくいかない。いつまでも落ち込むことになる。負のサイクルから逃れられない。」

この言葉は彼女に響いたようで、その後、僕が学年主任として彼女を指導していくうえで、一つのキーワードとなっていった。

さて、最近の若い人たちに顕著なのだが、どこかに理想の教師像があってそれに自分を近づけようという発想で仕事をしている人がいる。でも、そんなことをしていたら、いつまでも落ち込み続けることにしかならない。できない自分、教師らしくない自分を常に意識することになるからだ。「教師らしい」という言葉は危険な言葉だ。人としてちょっと躓いてしまうと、それが「教師らしくない」ということに置き換えられてしまう。「教師らしい」という言葉が、言ってみれば「完璧な人間であること」と同義になりかねない言葉であるからだ。そんなことは最初から無理なのである。完璧な人間などいないのと同様に、完璧な教師もあり得ない。こう言われればわかるのに、「教師らしさ」という言葉がこんなにも当然のことを曖昧にしてしまう。

人間はだれしも不完全である。良いところもあれば悪いところもある。良いところは伸ばした方がいいし、悪いところは直した方がいい。どうしても人はそう考えてしまう。でも、良いところを伸ばすことは良いとして、悪いところを直そうと頑張りすぎてしまうと苦しくなる。読者の皆さんは自分の悪いところを直そうとして直せたためしがおありだろうか。うん。私は自分の悪いところを直した。満足だ。そういう方がいるだろうか。僕はそういう人を見たことがないし、自分で悪いところを直そうと試みて直せたためしがない。これは自信をもって言う(笑)。

僕らは人間を相手にしている。人間を相手にしている僕らも人間である。人間である子どもたちに悪いところがあるのと同様に、教師である僕らにも悪いところはある。自分の悪いところを直そうとする教師は自分が苦しくなるのみならず、子どもたちにもそれを求めて子どもたちをも苦しくさせる。良いところを伸ばそうとするよりも悪いところを直そうとするが故に、結果的に教育的でない苦しさをもたらす。遂には子どもの良いところよりも悪いところばかりが目についてしまい、そればかりを指摘するようになる。悪循環だ。

僕は子どもたちも自分も、良いところを伸ばすだけで良いと思っている。自分の悪いところはどうしようもないのだから、その悪いところを武器にする方法はないかと発想とする。子どもたちにもそれがお前らしさなんだから、人に大迷惑をかけない程度なら許されるよと笑う。だから先生のダメさも許してねと上目遣いで訴える。子どもたちもそんな僕を笑う。これが僕の「僕らしい教師像」である。かなりいい加減たけれど、僕としてはなんにも困らない。子どもたちに困っている様子もない。それでいいじゃないか(笑)。文句を言われる筋合いはない。

数ヶ月後、隣の女の子からメールをもらった。既に彼女は常に笑顔で物事にあたる、前向きな女教師に代わっていた。二学期半ばのことである。

「ちゃんと見ていてくれている安心感があるんでしょうね。気持ちが一学期とは違うのが自分でも分かるんです。」

僕は次のように返信した。

「自信をもって、いろいろなことに『自分でやってみよう』を原則にして意識的に取り組んでみるといい。失敗したらごめんなさいすればいいだけだ。もっと失敗してもオレに叱られるだけだ。もっと大きな失敗ならオレもいっしょに頭を下げてやる。その程度の話だ。」

相手が同僚であろうと子どもであろうと、自分の思い通りに動かそうとするのではなく、そのままでいいんだよ、自分らしくしていていいんだよと安心感を与えて笑顔にしてあげることを第一義とする。これが教育の神髄、人を育てることの神髄なのだと僕は信じて疑わない。

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