長期展望
四月。教師ならだれでも四月が大好きです。新しい子どもたちと出会う。新しい同僚とも出会う。新しい仕事に取り組む。何か今年はやれそうな気がします。去年までと違った一年になりそう、そんな予感がします。新年度は何度迎えても同じように新鮮な気持ちになるものです。
でも、ふた月も経つとその新鮮味は薄れます。ふと気がつくと、去年と同じような日常を過ごしています。子どもたちに癒される心象も同じ。同僚との会話の話題も同じ。校務で犯すミスも同じ。自分は成長していないんじゃないか……。子どもの褒め方・叱り方、行事のつくり方、校務の進め方、同僚への根回し、保護者への対応、そりゃ新卒のときよりは少しだけうまくまわせるようにはなっているけれど、成長といえるほどのものじゃない……。そんな自己嫌悪に陥ることもしばしばです。
四月の鮮度が保てない。六月には去年と同じ自分がいる。十二月には疲れがピーク。三月には来年こそはと決意する。どうしてこんなことを何年も繰り返すのでしょうか。一昨年度より昨年度、昨年度より今年度、今年度より来年度、そういう成長の実感がなぜもてないのでしょう。
手前味噌で恐縮ですが、私は毎年、「この一年間で絶対に結果を出すぞ!」という強い決意で臨む研究テーマを一つだけ決めることにしています。そしてその追究になにがなんでも取り組むことにしています。そして自分なりに結果が出るまでやり通すことにしています。研究テーマというと、何か高尚なことをやっているように思われるかもしれません。でも、そんなことはありません。研究テーマとは言っていますが、「研究」というよりは「実践」的な、もっと日常的に取り組めるテーマについてです。
例えばここ数年は、次のようなテーマに取り組んできました。
【二○○九年度】 生徒たちの良い雰囲気づくりに寄与する特別活動
【二○一○年度】 国語科授業のノート指導
【二○一一年度】 特別な支援を要する生徒の対応
【二○一二年度】 ファシリテーション型授業の課題の分類
【二○一三年度】 所属教師それぞれの個性に対応する学年運営
見ていただければおわかりかと思いますが、これらの研究テーマは実はその年度の校務分掌と連動しているのです。
わかりやすいところで言えば、私は二○○九年度、勤務校の生徒会担当でした。この年は現在の勤務校に転勤した年だったので、ぎりぎりまで自分の校務分掌がわからなかったのですが、四月一日に仕事が生徒会だとわかり、「よし!今年は特別活動だ」と即決したのです。また、二○一三年度、私は一学年の学年主任でした。学年所属の先生方は新卒さんや臨採さんも多くて非常に若く、先生方を育てながら学年を運営していく必要がありました。しかし、先生方が若いからといって、私が上意下達のみで運営したのでは学年運営もだんだん停滞していきます。そう考えた私は、所属教師が若いからこそそれぞれの良いところ、つまりはそれぞれの個性を発揮させるにはどうしたら良いかということをテーマにしようと考えたのです。
これまた手前味噌ですが、このうち二○○八年度から二○一二年度までのテーマはすべて一書として既に上梓しています。その意味では、これらの研究テーマについて、私はそれなりの結果を出したのだと自負しています。ある程度の結果が出ないと本なんて書けませんから。
さて、話を戻します。四月に一年の「研究テーマ」を決めてその一年を過ごす。そうすると、確かに子どもたちへの対応や校務上の細かいルーティンワークなどは前年度と同じことをしているのですが、その同じ仕事が別の意味合いのものに見えてくるのです。だってそうではありませんか。同じように国語の授業にしていても、「ノート指導」をテーマにしていれば子どもたちのノートに目が行きますし、「ファシリテーション」をテーマにしていれば交流活動を開発しようと務めることになります。「特別活動」をテーマにしていれば、なんとかこの授業を特別活動と連動させられないかと考えますし、「学年運営」をテーマにしていれば、自分の前ではこんな雰囲気の子どもたちだけれど他の先生のときはどうなのだろうと見に行くようになります。こんなふうに考えながら過ごす毎日が、去年と同じに感じられることなどあり得るでしょうか。
そうです。教師が四月の気持ちの鮮度を保てないのは、言葉は悪いですが、「その日暮らし」をしているからなのです。一年を見通して、「これだけはやるぞ」という目標やテーマをもち、「そこだけは結果を出す」と本気で取り組めば、少なくともそのテーマに関してだけはその一年で大きな成長を遂げることができるのです。四十年近い教師生活、一年に一つのテーマについて本気で取り組み続けたらいったいどれだけのことができるでしょうか。
仕事に対して前向きに取り組むための一番のコツは、実は長期的な展望をもつことなのです。教師の多くは今日やらないと間に合わないという仕事を今日しています。仕事の早い人でもせいぜい三日後くらいの仕事をしています。でも、一年後の自分を想像してみる。半年後の担任学級を想像してみる。三ヶ月後の仕事に取り組んでみる。常に数ヶ月後のための「いまこの瞬間」と意識してみる。どうでしょうか。考えるだけでも楽しくなってきませんか?
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