驚嘆・当惑・矛盾を与えよ!
「初発の動機づけ」の二つ目は、「知的好奇心」を喚起することです。名著『知的好奇心』(波多野誼余夫・波多野佳世子・中公新書)によれば、「知的好奇心」の喚起には三つの方法があります。
①驚嘆を与える
②当惑を与える
③矛盾を与える。
「驚嘆を与える」とは、これまでの常識に反した事象を提示するということです。人間は常識に反したことを見せられると、それがなぜ起こるのかを知りたくなります。驚きは「なぜ?」という意欲となって、その原理の追究へと向かっていきます。
「当惑を与える」とは、多くは選択肢の形を採ります。どれも最もらしい三つ程度の選択肢を与えられ、正しい答えは一つであると告げられれば、やはり人間は答えはどれなのかと知りたくなります。
「矛盾を与える」とは、子どもの信念をそのまま押し進めさせ、あれこれと例題を出しているうちにその矛盾に気づかせるというものです。例えば、子どもがコップに入れた水の表面とコップの底とが並行だと考えていたとします。 そこで、少し斜めにしたコップを図に描かせてみます。すると、子どもはやはり水面と底を並行に描きます。次第にコップの傾きを大きくして描かせていくと、日常的に経験している、コップから水がこぼれるという現象と矛盾を来します。ここで初めて、「あれ?なんか変だ……」という追究が生まれます。「矛盾を与える」とは、こういうタイプの「知的好奇心」の喚起を意味します。
説明的文章の学習を例に考えてみましょう。
まず、説明的文章の題材となっている「謎」について、具体物を用いて実演してみせる。そうやって子どもたちを驚かせておいてから、「じゃあ、この説明文にはなぜこうなるのかの答えが書いてあるからね。」と言って範読すれば、子どもたちの集中力は見違えるようになるでしょう。これが国語科において「驚嘆を与える」ための最も顕著な例になります。
また、実際にその文章を読み進めていく段階では、「なぜ、そのように言えるのか」という内容的な読み取りにしても、「なぜ、筆者はこのような書き方をしたのか」という表現的な読み取りにしても、最もらしい三つの選択肢を与えて仮説を立てさせたうえで授業を展開すれば、子どもたちの読解は主体的になっていきます。教師が子どもたちに「当惑を与え」ているからです。
更に、ある程度、読み進めたうえで、「ちょっと待てよ。一般的にこうした方がいいと思われているのに、どうして筆者はこんなことをしたんだろう。」と、再び教材本文を読み込ませるというタイプの意欲喚起が「矛盾を与える」ことになります。一般的に「ゆさぶり」と呼ばれている手法です。
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