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手帳は年版を使う?年度版を使う?

僕の使っている手帳はどこにでもある普通のビジネスダイアリーだ。商品名をの「Desk Planner」という。博文館新社という会社から出ている。毎年、時期になるとTSUTAYAなんかでも普通に手に入る。とっても使い勝手が良くて、もう二十年近くこれを使っているように思う。実は僕はある教育系出版社から出されている教員向け手帳の開発に携わっているのだが、編集者には申し訳ないけれど自分が開発したその手帳を自分では使っていない。あくまで一般的にはこういうものが必要とされているだろうという商品開発をしたのであって、僕のよう教員としては一般的な手帳の使い方をしない人間には使えない代物である(笑)。意外と知られていないが、開発者が自分の開発したものを使わないなんてことは世の中にはいっぱいあるのだ。

僕が自分が開発に携わった手帳を使わない最も大きな理由は、この手帳が多くの教員の仕事の仕方に合わせて年度版しかないからだ。要するに4月から3月までの手帳である。教員のほとんどは四月から三月までの「年度」を仕事の単位と考えている。だから教員向け手帳は年度版しか存在しない。もし仮に1月から12月までを単位とする年版をつくったとしても、ほとんど売れないに違いない。当然と言えば当然のようにも思える。

でも、僕はもう二十年以上、手帳は年版を使っている。理由は幾つかあるが、一番大きな理由を一つ挙げろと言われれば、一月から五月くらいまでが最も長い見通しをもって取り組まなければならない仕事が多いからだ。

例えば中学校二年生を担当しているとする。札幌市の中学校は一般的に修学旅行が三年生の一学期に設定されている。中二担当の一月の仕事は、修学旅行まで生徒たちをどのように育てるかという視点抜きには考えられない。二年生にどう有終の美を飾らせ、三年生にどう好スタートを切るかなどというそれぞれを独立させた考え方をしていては、この時期の教育活動を巨視的に見ることができない。

確かに4月は生徒たちが進級を迎えて張り切っている。新しい学年でなんとか頑張ろうという意識を多くの生徒たちがもつ。年度末から新年度へという経緯のなかで、学級編制があり、新しい教科書をもらって、生徒たちは一度自らをリセットするような気持ちになる。今年こそ変われる……そんな気持ちになっている。

しかし、生徒のそんな心持ちに合わせて、教師まで自らをリセットして「今年こそ頑張るぞ」と新鮮な気持ちになっていたのでは生徒たちの指導なんてままならないではないか。そういう張り切っている生徒たちの気持ちをどうコントロールしていくか、どんな刺激を与えるか、そう考えなくてはならない。とすれば、当然のように前年度のうちに打っておく布石にも思いが至らなくてはならないはずである。

手帳は仕事の単位を規定する。無意識のうちにどうしても仕事に対する思考の単位を決めてしまう。年度版を使っているとこの年度をまたいで行う教育活動に思い至ることができない。

では、一年のなかに頭のなかから仕事が一切消えてしまう期間がないだろうか。仕事を完全に忘れて、僕らが最もくつろぐのはいつか。読者のなかにはそれが三月末だという方もまれにいるかもしれない。でも、少なくても僕にとっては年末年始である。平日は勤務校で仕事をし、週末は一年中全国を飛び回る生活をしている僕だけれど、年末年始には公私ともに一切の仕事がない。ただひたすら家族と一緒にのんびり過ごしている。毎年、12月28日から1月3日まで、複雑に絡み合っていた仕事の連鎖が一度ぷつりと切れる。12月28日に講演が入っていて28日に帰路に就くとか、1月4日に研究会が入っていて3日から移動開始というようなこともまれにあるけれど、それでも最低5日間は仕事を忘れてくつろぐことになる。

しかも3学期というのは、あくまで4月からずーっと付き合い続けている生徒たちと関わり続ける学期である。同僚も4月から一緒だ。ちょっとくらい仕事が遅れてばたばたすることがあったとしても、なんとかくぐり抜けることができる。生徒たちも「ごめん!」で許してくれる。同僚との人間関係も出来上がっていて助けてももらえる。実は一度リセットしたとしても最も被害が少ないのは年末年始なのではないか。

この話を僕がすると、「そんなこと考えたこともない」と多くの教師に驚かれる。「なるほど」と納得しもする。でも、だれも真似してくれない(笑)。 僕には、仕事の効率性を担保するのは「できるだけ遠くを見ること」だということを、みんな理解していないように思われる。

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