愛読書を交流する/交流の結果をプレゼンする
一 単元を貫く言語活動とその特徴
朝読書の全国的な普及以来、生徒たちに読書習慣が身につき、生徒たちの読書量も九○年代と比べて格段に増えている。しかし、読書量は増えているものの、その読書傾向には偏りが見られる。流行の猟奇的な小説ばかりを読む者、ケータイ小説を中心とした恋愛物ばかりを読むもの、ライトノベル以外には見向きもしない者、アスリートの成功譚ばかりを読む者、三国志をはじめとする中国の歴史物ばかりを読む者、朝読書の風景は、こうした生徒たちであふれている。この実態を打開する第一歩として本単元を設定した。
単元構成は、生徒個々人の愛読書を読み合うことから、各々の考える読書の魅力を交流するとともに、その中から何のために読書をするのか、読書の目的とは何なのかについて、少し抽象的に考えてみるという読書をテーマとした特設単元である。カタルシスを得ることだけを目的とした生徒たちの読書の実態に鑑み、読書の在り方について視野を広げることを目的としている。
本単元には、「自分の愛読書を紹介するグループ・プレゼンテーション」を単元を貫いて位置づけている。読書に対する視野を広げる、自分が気づかなかった愛読書の魅力について知るといった交流を通して、ものの見方・考え方を広げ深めることへの寄与を目指している。
二 ワールド・カフェの導入
ホールシステム・アプローチという考え方がある。「ホールシステムアプローチ」とは、「不特定多数の関係者が一堂に集まってさまざまな課題や、共通の未来について話し合う会話手法の総称」(『ホールシステム・アプローチ』香取一昭・大川恒・日本経済新聞社・二○一一年九月)である。その有効な手法の一つとして「ワールドカフェ」がある。一九九○年代にアメリカで開発された全員参加型の会議形態である。ファシリテーションの会議形態の一つとして、創造的な企画を生み出すのに有効な手法として知られている。(詳細は拙著『教室ファシリテーション10のアイテム・100のステップ』学事出版・二○一二年二月を参照)
具体的には次のように行われる。
Round-1
性別・世代などできるだけ多様な四人グループをつくり、テーマについて交流する
Round-2
グループを解体して別の四人グループをつくり、同様に交流する
Round-3
元のRound-1のグループに戻り、これまでの交流を踏まえてグループでアイディアをつくる。
Harvest
各グループのアイディアを全体で交流する
本単元では、この「ワールド・カフェ」の手法を採り入れ、愛読書の交流を行い、そのうえで小集団でプレゼンテーションしていくという流れである。
三 愛読書の交流、そしてプレゼン
単元は次のように構成した。
(1)愛読書の選定
次時より愛読書を紹介する授業を行うことを予告し、愛読書を一冊持参することを指示する。ジャンルは問わない旨を告げ、「こんなものを授業で紹介しても良いのだろうか」と感じるもので構わないので、本当に好きな本を持ってくることを強調した。
(2)お勧めポイントの選定
まず、持参した愛読書がなぜ好きなのか、その理由についてノートに五点以上箇条書きすることを指示する。簡単なこと、たわいもないことで良いことを強調し、できるだけ多くの理由が挙げるように示唆した。
次に、最も気に入っている箇所連続二頁分を選ぶこと、その頁をだれもがすぐに開けるように付箋をつけることを指示した。
更に、その頁から顕著に読み取れるその本の魅力を三点以上、大きめの付箋(76×127ミリ/黄色)に書くことを指示した。その際、付箋一枚につき、一つの魅力を書くものとし、できるだけ大きな字で見やすく書くように促した。
(3)グループ分け
その後、ワールドカフェに向けてグループ分けを行った。この際、男女二人ずつ、ジャンルができるだけ別々になるように配慮した。具体的には、まず、男子の小説、ライトノベル、歴史物、スポーツ、科学読み物、その他、女子の小説、ライトノベル、ケータイ小説、エッセイ、その他という順番に学級全員で輪を作らせる。その後、端から番号を1~9まで淳に番号を言わせる。9番まで行ったら1番に戻る。この繰り返しである。最終的に、37人学級だったので1番が5人、2~9番までは4人のグループとなった。このグループ編成で向かい合って座ることを指示したわけである。
(4)愛読書の読み合い
各グループで愛読書のお気に入りの二頁を読み合う。その頁を読んでの感想をノートに簡単にメモしておく。以上が第一時である。次時に「ワールド・カフェ」に取り組むことを予告して、この時間を終えた。
(5)ラウンド1(15分)
問い 本の魅力って何なのでしょうか。できるだけ多くリストアップしてみましょう。
まず、各自が愛読書の魅力を語る。その際、前時に書いた付箋を提示しながら語ることを指示する。その後、交流を重ね、読書の魅力についてリストアップしていく。この段階ではまとめることはせず、どんどん膨らませていく。交流する中で新たに思いついたことも付箋に書いて増やしていく。
(6)ラウンド2(15分)
問い 結局、本の魅力って何なのでしょう。幾つかにまとめてみましょう。
次にグループ替えをしてのラウンド2である。次のように言う。
「これから〈ラウンド2〉を始めます。テーマは〈ラウンド1〉での交流を踏まえて、『結局、本の魅力って何なのでしょう。幾つかにまとめてみましょう』です。まずは、〈テーブル・ホスト〉がこのテーブルでは〈ラウンド1〉でどんな話し合いが行われたのか、模造紙に書かれたものを使いながら説明してあげください。次に、他の三人が『私のグループではこんな話し合いだったよ』とか『うちのグループではこんなことも出ましたよ』とか、できるだけ観点を広げられるような報告をしてください。この二つが終わったら、いよいよいま提示した問い『結局、本の魅力って何なのでしょう。幾つかにまとめてみましょう』というテーマについて、四人で話し合いを始めます。模造紙は自分のグループのものだと思って、遠慮せずにどんどん書き足して構いません。何か質問はありますか? では、スタート!」
生徒たちは、四つのグループから集まった四人の小集団で、多くの情報から本の魅力を整理していくことになる。
(7)ラウンド3(15分)
問い 「これが読書の魅力だ!ベスト3」をつくってみましょう。
ラウンド3ではもとのグループ(ラウンド1)のグループに戻って、読書の魅力を精査することになる。生徒たちは優先順位を考えたり、二つの魅力を融合したりしながら、ベスト3をまとめていく。例えば、あるグループは「泣いたり笑ったり怒ったり心が豊かになる」「知らなかった知識をたくさん教えてくれる」「本について語り合うことで友人関係が豊かになる」とまとめていた。この時間はハーベストを行わず、第二時を終えた。
(8)グループ・プレゼンテーションの準備
第三時は前時にグループでまとめた「読書の魅力ベスト3」をもとに、自分たちのグループ四人の愛読書をグループ・プレゼンテーションすることを予告し、その準備をさせる。具体的には、各々の本について、ベスト3の各項目に関して具体的な魅力を挙げ、それを八~十分程度のプレゼンテーションとして構成するわけである。最初にベスト3の項目を挙げ、それに基づいて一人一人が愛読書を紹介していくというグループ・プレゼンテーションである。その際、「読書の魅力ベスト3」に関してだけは画用紙三枚にまとめ、順次発表しながら提示することを指示した。また、実物投影機で頁をテレビに映したり、印象的な叙述を朗読したりなどの工夫を施すことを指示した。
(9)愛読書発表会(二時間)
九つのグループが全体に対して、順にグループで愛読書をプレゼテーションしていく。ちょうど二時間かかった。その後、全員の愛読書を一ヶ月間だけ学級文庫に置くことを指示した。生徒たちはこの間、朝読書で互いの愛読書を読み合い、休み時間に感想を述べ合っていた。
第一に「ワールドカフェ」による交流、第二に「グループ・プレゼンテーション」による交流、第三に仮の学級文庫に置いての一ヶ月間の交流、この三つの交流活動によって、生徒たちの読書に対する視野を広げる、自分が気づかなかった愛読書の魅力について知るという二つの目的は達成されたと考えている。三年次にもう一度取り組みたい活動である。
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