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コミュニケーション能力って何?

9784761919931_2新刊『コミュニケーション能力って何?-学級の空気を更新する生徒指導』(学事出版)が刷り上がってきました。

まえがき

こんにちは。堀裕嗣(ほり・ひろつぐ)と申します。学事出版からは「学級経営」「生徒指導」「教室ファシリテーヘション」「一斉授業」と、いわゆる「10原理・100原則シリーズ」(以下「10・100シリーズ」)と呼ばれる四冊のスキル本を上梓しています。そうしたスキル本、ハウトゥ本を期待してこの本をお買い上げいただいた方にとっては、本書は期待はずれの本になってしまっているかもしれません。本書にはスキルもハウトゥも原理も原則も一切載っていないからです。

本書はタイトルにもなっている「コミュニケーション能力って何?」をはじめとする六つの章から成ります。正直なところ、一貫性のない、わがままな本を書いてしまった感が否めません。しかし、僕がこれまで上梓してきた「10・100シリーズ」を支えている基本的な構え、教師としての立ち位置のようなものはある程度書けているのではないかと感じています。特に、現在(いま)この瞬間に対する時代認識を踏まえ、教師は学校教育の在り方をどう考えるべきか、僕なりの考え方を示しています。

これまで「10・100シリーズ」に親しんでいただいた読者の皆様には、幾分難しく感じられる部分もあるかもしれません。少々難解な用語も散見されることでしょう。しかし、よく読んでいただければ、難解な用語はすべて定義していますし、複数の具体例を挙げてわかりやすく理解いただけるように配慮したつもりでもあります。どうぞ、文字ばかりだから、各章のタイトルや小見出しの意味がわからないからと避けないで、ちょっと味見をしてみるつもりでお読みいただければと思います。ほら、食べ物だってちょっと苦みがあったほうが長く楽しめるということがあるではありませんか。子どもの頃に食べられなかったピーマンや玉葱が大人になって大好きになってしまうように、大人になって山菜の味を覚えて「世の中にこれほど美味いものがあったのか」と感じるように、若手教師の頃にはちょっと苦みのあるくらいの本のほうが将来的には長く役立っていくというようなこともあるかもしれません(笑)。まあ、大人になってもピーマンや玉葱が食べられない人とか、山菜はみながいうほどおいしくはないと感じる人たちも少なくありませんから、本書がお口に合わないという人も決して少なくはないのでしょうが。

さて、本書は第1章「コミュニケーション能力って何?」で提示した議論を踏まえ、第2章以降で教育活動の在り方をどのように考え、どのように実践していけば良いのか、教師としての職能や職員室の人間関係をどう考えていけば良いのか、そんな教師として生きるうえでの根幹のところを切々と語っていく構成を採っています。第四章以降はかつて商業雑誌や同人雑誌に発表したものに加筆修正を加えたもので構成されています。ただし、掲載する文章はすべて、教師にとって〈論理的に考えること〉と〈情緒的に感じてしまうこと〉とのバランスをどう採れば良いのかに言及しているものを意図的に選択しています。僕にとって「コミュニケーション能力」とは〈論理〉と〈情緒〉とのバランスを取りながら他者と関わり続けることを指しますから。この観点を頭の片隅において本書を読み通していただきますと、割と理解しやすいかもしれません。

また、本書には参考文献がたくさん登場しますが、注を施すということは敢えてせずに本文中に書名と著者・出版社・発行年を書き添えるだけにして、できるだけ難しい印象を与えないようにしています。更に言えば、参考文献の多くを文庫や新書にして、読者の皆さんがすぐに入手しやすく、且つ抵抗なく読むこともできる、それでいて本格的な議論は展開されている、僕としてはそうしたものを掲載しているつもりです。

この本は「10・100シリーズ」に比べると圧倒的に売り上げが低くなるでしょうけれど、教師がよりよい仕事をしていくには「10・100シリーズ」よりも圧倒的に大切なことが書いてあります。少なくとも僕自身はそう考えています。本書が右も左もわからない新卒教師に、若さで乗り切ることに限界を感じ始めた中堅教師に、最近の子どもがわからなくなつたと嘆くベテラン教師に、総じて学級経営や生徒指導に悩んだり不安を感じたりしているすべての教師に、少しでもお役に立てるなら、それは望外の幸甚です。

あとがき

ここ三年ほどで学級経営や学年経営について10冊以上の書籍を上梓させていただきました。実はそのすべてが、前任校札幌市立上篠路中学校での四年間にわたる学級経営・学年経営をもとにして書かれたものです。現任校である北白石中学校に着任して以来、私は四年間にわたって担任をはずれていたものですから、学級経営や学年経営について責任ある立場でものを考えるということがなかったのです。その意味で、この三年間に書いてきた私の学級経営論・学年経営論はあくまで上篠路中学校での実践記録をもとに、それを分析したり発展させたりしながら書いてきたというのが正直なところです。つまり、私がこの三年間に書いた本のすべてが二○○五年から二○○八年までの実践をもとにしていたということです。

しかし、私は今年度、五年ぶりに担任をもち、五年ぶりに学年主任として生徒や同僚と関わっています。その生活が始まってまだ二ヶ月半程度なのですが、私の思考はこの四年間に考えたことを凌駕するくらいに活性化しています。毎日が発見の連続です。今年度一年間を終える頃には、上篠路時代の実践とは発想の異なる学級経営論や学年経営論が生まれているに違いない……そんな確信があります。ああ、自分はいま、新しい段階に入ったのだな……、そんな実感ももっています。いよいよ、上篠路実践との、良い意味での決別のときが来たのだな……そんな感慨さえ抱いています。本書を締めくくる文章として書いた「髙橋美智子先生のこと」は、私にとって上篠路実践の象徴である美智子先生への感謝状であり、愛惜の文章であり、ラブレターであり、そして北白石中学校で新たな理論・実践をつくっていくのだという決意表明でもあります。本書を美智子先生をはじめとする上篠路のかつての同僚たちに贈ります。髙橋美智子先生、高村克徳先生、齋藤大先生、佐藤恵輔先生、仙臺直子先生に改めて深く深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

本書は加藤愛さんという新しい編集者との最初の仕事になります。この加藤さんがまたものすごいバイタリティのある方で、バイタリティには自信をもっている私でさえ戸惑ってしまうほどなのです。おもしろい編集者と出逢ったものだと人生の妙を感じます。また、今回もイクタケマコトさんには味わいあるイラストを添えていただきました。お二人にも深く感謝申し上げます。更に今回は、お二人の方に校正前の原稿を読んでいただいたうえに建設的なご意見をいただき、加筆修正した経緯があります。事情があって実名は挙げませんが、シンシナとファンディに感謝、感謝です。

沢田研二/時の過ぎゆくままに を聴きながら……
二○一三年六月一六日 自宅書斎にて 堀 裕 嗣

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