思い入れ
好きこそものの上手なれ……とは言いますが、好きなことばかりやっていては成長がありません。かと言って、あれもこれもと欲張りすぎるとどれも中途半端になってしまいます。人間は一度に三つも四つもということに熱中して取り組むことは不可能です。
私は毎年、この1年間で絶対に結果を出すという強い決意で臨む研究テーマを一つだけ決め、なにがなんでもそれに取り組むことにしています。
例えばここ数年で言うと、次のようなことに取り組んできました。
【2008年度】学級経営の機能的なシステムづくり
【2009年度】生徒たちの良い雰囲気づくりに寄与する特別活動
【2010年度】国語科授業のノート指導
【2011年度】特別な支援を要する生徒の対応
【2012年度】ファシリテーション型授業の課題の分類
2008年度の研究テーマは既に拙著『必ず成功する「学級開き」魔法の90日間システム』(明治図書・2012年1月)としてまとめました。あとの4つももう少し成果を整理したうえで提案させていただこうと考えています。
教師という仕事は、子どもあっての仕事です。子どもたちは常に教師の思ったとおりに活動したり成長したりしてくれるわけではありませんから、毎日細かいことが起き、何かに取り組もうと思っても、なかなか計画通りに進むものではありません。ですから、この1週間で何かに取り組もうとか、月ごとに何か成果を出そうとか、短いスパンで考えたのではほとんど意図したとおりに達成することはできません。短いスパンで計画を立てると、それができないことがかえってストレスになります。
しかし、1年でこのテーマについてそれなりの成果を出そうといったゆるい計画を立て、それを意識しながら仕事をしていると、多少の遅れも余裕ができた時期に取り返せますから、それほどストレスがたまりません。また、一つの研究テーマを常に意識しながら1年を過ごすことによって、つまり1年の長きにわたって一つのことを意識し続けることによって、某かの発見が自然に生まれてくるものです。
一つの研究テーマについて「絶対に結果を出す」と考えていると、そのことだけは揺るがせにせずに1年を過ごすことができます。例えば、わかりやすい例で言うと、私は2010年度、他のことは譲っても授業のノートづくりだけは生徒たちに徹底的に要求し続けました。その結果、私がこの年に得たノートの指導原理の成果にはかなり大きなものがありました。
あれもこれもと欲張らず、年に一つの研究テーマを設定して1年間を過ごせば、それなりの成果が必ず得られるものです。
「思い入れ力」という言葉を聞くと、一般的には好きなこと、やりたいことに対する思い入れと考えるのが一般的でしょう。要するに、学級通信に対する思い入れとか、ある具体的な授業方法に対する思い入れとか、部活動の指導に対する思い入れとかですね。
もちろん、学級通信だけは力を入れて発行した教員人生だった、○○方式一筋35年、生徒たちと一緒に全国大会に進めたことを誇りに思う、そうした教師生活は尊いものです。しかし、こうした一つのことだけに取り組む教師人生は、次第次第に、本人も気づかぬままにマニアックになっていくものです。そのマニアックさを私は潔しとしないのです。
一つのことを深めることは尊いことです。でも、教師に必要なのは、少なくとも義務教育の教師に必要なのは、深さ以上に「広さ」なのです。私はその「広く身につける」ということ自体に深い思い入れをもっています。
ただ、「広さ」と言っても、闇雲にあれもこれもではすべてが中途半端になってしまいます。私は若い頃、そういう教師でした。そして、何年もその中途半端さから抜け出ることができない教師でした。年度に一つの研究テーマを設定するという在り方は、そうした経験から編み出した私の生活スタイルなのです。
実は、一つの研究テーマを決め、思い入れをもってそれに取り組んでいると、思わぬ副産物が生まれることがあります。
例えば、私は2008年度、学級経営の機能的なシステムを研究テーマに掲げていました。私はこの年、中学1年生の学年主任だったのですが、4月に学年の先生方と一緒に話し合い、4つの学級が同じ学級組織、同じ当番活動の仕方、同じショートホームルームのメニューで運営しました。
そうすると、同じシステムを敷いているというのに、学級によって機能度に差が生まれていることに気がつきました。こういうことを言うと、一般的に、よく機能している学級の担任は力量が高く、機能させ切れていない学級の担任は力量が低い、と感じられる読者が多いかと思います。しかし、そうではないのです。あるシステムはこの担任がよく機能させているけれど、別のあるシステムはこっちの学級の方が機能度が高い、そういう差が生まれるのです。
すべてのシステムについて、学級Aが学級Bよりもよく機能しているというのであれば、学級Aの担任が学級Bの担任よりも力量が高いと結論づけてまず間違いないでしょう。しかし、実態はそうではないのです。各担任によって機能しやすいシステムと機能しづらいシステムがあったのです。
私は「これがなぜなのか」と監察し続けました。そこから生まれたのが、担任のキャラクターによって教育活動の機能度に差が生まれるのだという、現在の私の核になっている考え方です。ここから生まれたのが拙著『教師力ピラミッド~毎日の仕事を劇的に変える40の鉄則』(明治図書・2013年1月)です。この年の研究テーマは、そのテーマの直接的な成果である『必ず成功する「学級開き」…』の他に、私にもう一つの別の著作のテーマを開発させたのです。
1年間、思い入れをもって一つの研究テーマに取り組む。「思い入れ力」はこのように成果を広げる力さえもっているものなのです。
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