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マクドナルド化する学校教育

私たちの社会はこうした〈マクドナルド化〉が少しずつ進行している社会です。いいえ、それはは1990年代から20年以上をかけて進行してきて、そろそろ完成に近づこうとさえしています。

21世紀になってよく話題となる語に「監視社会」がありますが、20年前ならば、現在のような至る処に監視カメラのある状況にはありませんでした。監視カメラは犯罪を撮影して犯人を特定しようということ以上に、監視カメラがあることを住民に知らしめて犯罪の抑止力にしようという発想の方が強いと思われます。

また、多くのサービス業や窓口業務において、徹底して接客態度がよくなってきたのもこの20年間の顕著な動きです。80年代まではタクシーの運転手さんが無愛想だったり、職人気質(かたぎ)の居酒屋店長がいたり、役所の窓口でものすごく待たされたり、などということはごく普通のことでした。いまではそうした例はほとんど見ることがありません。私個人としてはこういう動きにちょっと寂しさも感じていますが、基本的にはこうした方向性はこの国で良いこととして捉えられています。

さて、社会の動きという学校教育とは遠い話をしてきましたが、学校教育だって決してこの動きと無縁ではありません。「ニコニコ巡視」の奨励や「カウンセリング・マインド」の奨励はその最たるものですが、それだけでなく、現在、学校教育のありとあらゆる領域において〈マクドナルド化〉は意識的・無意識的に進行しています。

例えば、先にファーストフード店における、アルバイト店員が笑顔でハキハキ、クレームに対応するのは店長一人という話をしましたが、これと相似形の動きが学校教育においてもどんどん進んでいます。学級担任はとにかく子どもたちと保護者と良い関係を築かなくてはならない、クレームがあった場合には学年主任、生徒指導担当、教務主任、管理職などがあたる、こうした傾向が現在、加速度的に進んでいます。要するに、「クレーム処理の外部化」ですね。

或いは、ワークショップ型授業の隆盛なども〈マクドナルド化〉の動きの一端といえます。体験重視の授業づくりによって、子どもたちが楽しく主体的に学び合うことができるということが売りになっていますけれども、それは逆に言えば、本来教師が行うべき教授行為を子どもたちに分担させているということでもあります。

また、すべてのワークショップ型授業は設定やルールの説明(=インストラクション)が大切だと言われますが、要するにこれは〈フレームワーク〉をがっちりとつくり、環境としての絶対枠組みを設定して、あくまでその範囲の中での自由度を高めているに過ぎません。

最近、〈ワールド・カフェ〉が流行し、学校教育においてもかなり効果を上げていますが、よく考えてみると、「必ず4人で話し合いなさい」「全員が他のグループにばらけなさい」「絶対にもとのグループに戻りなさい」と、ルールと強制に支えられたガチガチのシステムであるという側面もあります。要するに、参加者にそうと気づかせないままに、参加者の行動や気持ちをコントロールしているわけですね。

このように学校教育でなんとなく良きこととして導入されてきたことを、〈マクドナルド化〉の3つの特徴に従って分類すると、例えば次のようにも言えるという側面があります。

1)徹底したマニュアル化

①ニコニコ巡視
子どもたちにそうと気づかせぬままに、教師が子どもたちを監視すること。
②カウンセリング・マインド
子どもたちにストレスを感じさせることなく、学校文化になじませていくための予定調和的手法。
③クレームの回避、及び対応の外部化
学級担任が子ども・保護者との揉め事の矢面に立たないことを目指して、基本的にはクレーム回避の姿勢に徹し、やむを得ずクレームを受けたときには学年主任や管理職など担任以外の者が対応するというクレーム処理の在り方
④画一化した教師像
クレーム回避のために、或いは「学校としての姿勢」の名のもとに行われる、各担任の指導の在り方を一律にしようとする動き
⑤チーム・ビルディング
教師像の画一化を避けるために、教師の多様性を担保しながら、それを組織的に動かそうとする、流動性の高い組織管理の在り方

2)予測可能性によるストレスレス
①見える化
様々な物事を視覚化してわかりやすく提示することによって、子どもたちに見通しをもたせてストレスを軽減しようとする手法
②特別支援教育
教師の共通理解による環境設定によって、子どものストレスを軽減しながら学校文化と棲み分けさせようとする手法。
③学びのしかけ
教師の教えやすさよりも子どもたちの学びやすさを優先して授業づくりをしようとする、子どもたちのストレス軽減策
④ブロークン・ウインドウズ理論
環境の美しさを保つことによって、子どもたちにストレスを与えず、且つ子どもたちの心の頽廃をも回避しようとする理論

3)顧客の行動のコントロール
①協同学習
②ペアグループ学習
③『学び合い』
④ファシリテーション
⑤クラス会議
このほかにもこうした教育手法がたくさんあるが、基本的には、一斉   授業であれば教師がすべきとされる教授行為(の一部)を子どもたち   に分担して担わせている側面がある。

以上、恣意的に例を挙げましたが、私はこれらの理論・手法を批判しているわけではありません。ここ20年ほどの間に奨励されたり主張されたりしたもののうち、それなりに効果を上げて広く受け入れられているものの多くが、学校教育における〈マクドナルド化〉の傾向を潜在的にもっているのだということを主張しているのです。

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