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環境によるコントロール

こうしたマクドナルドの戦略は、具体的には、様々な技術で環境を調整することによって、店員の動き、客の動きを管理しようとするところにその本質があります。これをジョージ・リッツァは〈テクノロジーによるコントロール〉と呼んでいますが、具体例を挙げるなら、次のような事例になりましょうか。

1)徹底したマニュアル化

マクドナルドに代表されるファーストフード店においてまず第一に挙げられる特徴といえば、何と言っても〈徹底的したマニュアル化〉でしょう。その代表は言うまでもなく、あのレジカウンターの「笑顔・ハキハキ接客」です。あの笑顔とハキハキは客の老若男女を問いません。客が100歳のご老人でも5歳の子どもでもマニュアル通りに対応しています。とにかく口角を上げた笑顔、ハキハキした声なのです。

おそらくこれは徹底したクレーム回避の戦略だと思われます。確かに、どんなに親切そうな人に対してもヤクザっぽい人に対しても同じ対応をしていたとすれば、クレームにつながることはなかかな起こらないでしょう。事実、マクドナルドでは、想定外の自体が起こった場合にはそれに対処できるのは店長一人だけと決まっているとも聞きます。要するに、クレームがあったとしても、店長だけが対応し、アルバイトの店員はその対応をせずに済むわけですね。

そうした安心感がアルバイトの店員がマニュアルを徹底して従うことができる原動力になっている面もあるのかもしれません。マクドナルドはマニュアルに順応できるから、アルバイトは十代を雇うということを原則としていたそうです。二十代になって思考力や判断力がついてくると某かの提案をしてくるものだ、そういう輩は必要ない、まあ、そういうことなのでしょう。

2)予測可能性によるストレスレス

多くのファーストフード店に共通して見られる特徴の第二は、店に入ってから食事を取って店を出るまで、そのすべてに見通しがもてることです。見通しがもてると、人はほとんどストレスを感じることなく過ごすことができる、その結果、多少の労働分担さえ気にならなくなる、そういうことなのでしょう。

事実、ファーストフード店では、顧客が担っている労働は少なくありません。先に述べたように、商品をテーブルまで運んだりゴミを分別して捨てたりといったことがなければ、店舗側は必ずホール係を用意しなければなりません。また、お客さんが整然と列に並ぶというルールに従わないとしたら、「列に並んで下さい」と客を並ばせる係も必要となるでしょう。

また、最近、多くのファミリー・レストランで取り入れられているサラダバーやドリンクバーなども、本来ならレストラン側がする仕事を顧客に担わせているものの代表的な事例といえるでしょう。

3)顧客の行動のコントロール

第三の特徴は、顧客にそれと気づかせないままに顧客の行動をコントロールしていることです。意図的に固い椅子を使うことでお客さんが長く座っていられないようにするとか、店が混んできたらBGMのボリュームを上げるとか、限定的なメニューにして商品を選ぶ時間を短縮するとかですね。これらはすべて、顧客の回転をよくするために行われています。

この手の行動のコントロールは、環境設定によって客の行動を最大公約数的にコントロールしようという戦略です。居酒屋で「お客様、お時間です」と出て行くことを促されてがっかりした経験をだれもがもっていることでしょう。大声で話をしていて、「他のお客様の迷惑になりますので……」と言われて、店員に文句をつけている客を見たことがないでしょうか? 女性がメニューを選ぶのにああでもないこうでもないと迷っているのを見て、顔で笑いながらもイライラした経験、男性なら必ずもっているはずですよね。

つまり、マクドナルドを始めとするファーストフード店の戦略は、こうしたネガティヴ事象を環境を管理し調整することによってなくしていこうとするものであるわけです。しかも、100%ではないけれど、80%くらいの達成を目指す。ゆるやかにその方向性を目指し達成していく。それが、揉めることなく顧客の行動をコントロールするうえでの神髄なのです。

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