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目指せ!国語の達人 魔法の「聞き方ネタ」50

まえがき

拙著『教室ファシリテーション10のアイテム・100のステップ』(学事出版)をお読みいただいた方の何人もから同じ質問を受けました。

「教室ファシリテーションの理念はよくわかりました。手法もよくわかりました。でも、いきなり導入してうまく行くのでしょうか……。」

なるほど、その不安はよくわかります。

「本当にうまくいくのか不安で、最初の一歩が踏み出せません。」とか、或いは「実際にやってみたけれど、なんとなくしっくり来ないんです。他に何かコツがあるんじゃないでしょうか。」とかいった声もありました。

こうした声に触れて、私は気がつきました。そういや、子どもたちをつなげるこの手の活動は、ダイナミックな教室ファシリテーションの手法に取り組む以前に、日常的に小さな活動をたくさんしている、と……。教室ファシリテーションで提案したダイナミックな手法は、そうした日常的な取り組みを前提としていたのだ、と……。

今回、「教室ファシリテーションへのステップ」と題して、国語科の授業の在り方について、音読・スピーチ・聞き方・作文・話し合いの五つについて、ネタを含めてシリーズで上梓させていただくことになりました。本書はその3冊目「聞き方編」です。

「聞くこと」の指導は学校教育の永遠の課題です。なぜ子どもたちが聞いてくれないのか、なぜ子どもたちが理解してくれないのか、なぜあんなに一所懸命に話したのに子どもたちに伝わらないのか、教師はそんなことばかり考えています。

かつては教師の話し方が洗練されれば、子どもたちは必然的に理解してくれるはずだという論理で、教師のプレゼン能力や授業技術、教育技術ばかりがテーマにされ研究されました。もちろん、そうした努力は一定の成果を上げましたが、子どもたちの聞き方そのものを上達させるには至りませんでした。教師のプレゼン能力や授業力ばかりが高まって、子どもたちを成長させることはなかったのです。

実は、構成意識をしっかりもち叙述に潤いをもたせたわかりやすい話やうまい話ばかり聞いている子どもたちは、だらだらした話、下手な話に拒否反応を示すようになります。一見、それでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、世の中では重要な内容、大切な内容を話す人が必ずしも話がうまい人とは限りません。そうした話に耳を傾けることのない子どもたちは人生において大きな損をするのではないか、私はそう考えています。

下手な話でもよく理解できる、そういう人こそが実は「聞く力」が高いのです。教師が教育技術を高める、プレゼン能力を高める、これは基本的に良いことですが、良いことにも必ず裏の面というのがあるものです。私たちは自分の力を高めることだけを目指して教師をしているわけではありません。あくまで育てなければならないのは子どもたちであり、力をつけてあげなければならないのは子どもたちなのです。日常的にそういう意識をもちたいものです。

本書では、「聞き方スキル」を4段階で提案しています。「傾聴態度」「要約聴取」「批判聴取」「批判聴取」の四つです。実践編もこの4段階に沿って構成しました。この4段階のスキルは「研究集団ことのは」が10年以上をかけて実践研究を重ねてきた、かなり効果の高い実践的な捉え方であると自負しています。

しかも、「教室ファシリテーションへのステップ」という本シリーズの思想を反映して、すべての実践が小集団による交流を意識して提案されています。本書が子どもたちの「聞き方スキル」の上達にとって、また、現場の国語科授業の活性化にとって、少しでもお役に立てるなら、それは望外の幸甚です。

あとがき

本書は「研究集団ことのは」にとって、14冊目の共著となります。国語科授業の本としては8冊目です。「教室ファシリテーションへのステップ」というシリーズ5巻本としては、3巻目にあたります。

2巻が昨年の10月に完成したにもかかわらず、3巻が完成するのはおそらく2月末。このあとがきの執筆時点で、実はまだ完成していません。この責任はだれにあるのか。何を隠そう、ひとえに編集担当の山下幸くんにあります。でも、「研究集団このとは」のメンバーはだれ一人、腹を立てたりはしません。「まあ、山下さんだから仕方ないか」と思うだけです。

僕と山下くんの出逢いは1988年に遡ります。大学の1期後輩として入学してきた山下くんは、住所に「字」のつく田舎から教師を目指して意気揚々と入学してきたのでした。弱々しい青年でした。ドジョウのようにニョロニョロした青年でもありました。「幸(みゆき)」という女の子のような名前がよく似合う青年でもありました。

以来、25年が経過し、彼も40歳を超えました。その間、彼は大成長を遂げ……ることもなく、いまでもやはり、弱々しく、ニョロニョロし、「幸」という名の似合う中年であり続けています。そんな彼がいまでは「研究集団ことのは」の実務を取り仕切り、実質的に動かしているのを見て、そしてときには若手教師に説教をしている場面なんかを見ると、先輩としてはなんだか不思議な感じがします。

最近気づいたのですが、僕と山下くんは不思議な関係にあります。二人とも酒好きなのですが、もう25年の付き合いで、いまでも年に数十回と逢っているというのに、なぜか、いまだに二人で呑んだことがないのです。ある夜、そのことに気づいた僕は、僕と山下くんの二人でやるあるセミナーのあとに「二人で呑もう」と彼に電話しました。山下くんも「ええ?そういや、二人で呑んだことないね」と言って、呑む約束をしました。

しかし、そういう日に限って、僕らは会場にいた他の民間教育団体の方々に飲みに誘われてしまい、結局、7人で呑みに行ったのでした。僕も山下くんもべろべろになって、楽しい呑み会になったわけですが、二人で呑むという企画は頓挫しました。

なんとなく、二人で呑む機会というのは、もう一生涯、訪れないような気がしているのは、きっと僕だけではありません。山下くんの方もそんな予感がしているはずです。僕らが二人で呑むと、僕が山下くんを一方的にいじめる構図になるでしょうから、きっと神様が山下くんを守って下さっているのでしょう。そんな感じがします。

とまあ、どうでもいい話を綴っていますが、なんとなく、そんな関係こそが僕と山下くんの関係をこんなにも長く続けさせているようにも感じ、そんな関係こそが僕らにこのシリーズ本を作らせているような感じがしているのです。わかりますか?わかりませんよねえ(笑)。

いずれにしても、次回、第4巻のあとがきは、山下くんに任せてみようと思います。そうすればきっと、今回のこの僕のあとがきに対して、彼が返信を寄越すことでしょう。いま、そういう企画を思いつきました。

今回も編集の及川誠さんにはたいへんお世話になりました。この半年近く、お逢いする度に、或いはメールをいただく度に、「聞き方編は進行はいかがでしょうか」と問われ続けてきました。それに対して、いつも「すみません。もうそろそろです。」と応えてきましたが、まあ、事情はこういうことです。すべて、山下幸くんがニュロニョロと仕事を滞らせていたのです。言い訳は次回、第4巻で本人が致します。お楽しみに。

HALCALI/ギリギリ・サーフライダーを聴きながら…
2013年2月17日 自宅書斎にて 堀  裕 嗣

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