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ニコニコ巡視とカウンセリング・マインド

実はこうした〈マクドナルド化〉の原理は、昨今、学校教育にも意識的・無意識的に導入されています。

例えば、みなさんは休み時間に、ニコニコしながら、或いは生徒たちと半分遊びのような会話を楽しみながら廊下巡視をしてはいないでしょうか。しかもそれは、生徒指導部や学年の方針として、「いかにも監視という雰囲気の巡視は避ける」というように取り決められた結果として行ってはいないでしょうか。

私は1966年生まれですが、私の中学生時代は校内暴力の真っ只中の時代で、廊下には竹刀をもった生徒指導の先生がいたものでした。何か悪いことをしたときにも、自分の話などはほとんど聞いてもらえず、とにかく怒鳴られる……そういう指導を受けてきたものです。

実はこのことは、私たちの受けてきた教育からいま私たちが行っているような教育へと、時代がシフトしてきたことを示しています。つまり、「中学生らしい生活態度」や「あるべき学生の姿」のような理念を前面に押し出しながら、「そうあるべきである」といった指導から、生徒たちに嫌な思いや疑問を抱かすことなく、周りに迷惑をかけたり周りから非難されるような生活態度を改めさせていく指導へ、というシフトです。教師の指導姿勢として考えれば、要するに「これが正しい」というメッセージをひたすら投げかける指導姿勢から、マクドナルドのようにそうとは気づかせないままに目的を達成する指導姿勢へと変化してきているわけです。

また、生徒指導研修会では、いわゆる指導事案のが起こったときにも「カウンセリング・マインド」が奨励され、当該生徒によく事情を聞き、生徒の立場を理解たうえで説諭するように、といったことが基本方針として示されてはいないでしょうか。

これも〈マクドナルド化〉の一種です。「カウンセリング・マインド」は一般に「共感的理解」とも呼ばれますが、いくら共感的に接したとしても、最終的な落としどころはもともと決まっているのです。上からガン!と指導するのではなく、生徒の立場に寄り添い、待つ姿勢を旨に過程を重視しながら教師の想定する学校や社会との調和に少しずつ近づけていく、そういう指導・援助の在り方に過ぎません。

ためしに「僕はどうしても人を殺したいんです」と言った生徒と相談活動をすることを考えてみると良いでしょう。だれもが「きみの気持ちはわかるよ」とは言えないはずです。誤解を怖れずに言えば、「カウンセリング・マインド」とは、生徒たちに共感的な姿勢を示しながら予定調和に誘っていく営みのことなのです。

マクドナルドが顧客にネガティヴな感情を抱かせずに目的を達成するタイプのサービスにシフトさせたように、学校教育もまた多くの場面で、生徒にネガティヴな感情を抱かせずに指導目的を達成するタイプの手法が奨励されてきています。この30年の教育改革の動向は、学校教育の〈マクドナルド化〉へのシフトであったという側面があるのです。

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