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効率性と計算可能性と予測可能性

ジョージ・リッツァによれば、〈マクドナルド化〉の観点は三つです。

第一に〈効率性〉。マクドナルドでは、注文を受けてからハンバーガーが1個つくられるまで何十秒……というライン化が行われています。このような効率化が徹底して行われているために、私たちは注文してからどのくらいで食事にありつけるのかということがわかる、そういう仕組みになっているわけですね。しかし、それだけならばさして珍しいことではありません。多くの外食産業が食事をつくるところまではライン化しているはずです。

おそらく、マクドナルドの斬新さは、本来サービスを提供する側が行うべき労働を客に分担し、客の行為までをもラインに組み込んだところにあります。食事をつくることから食べること、そして片付けることに至るまで、時間が短縮されるように徹底的にライン化されているところに、マクドナルドの最大の特徴があるわけです。

第二に、〈計算可能性〉。前にも述べましたが、マクドナルドでは店に入ったときに十人程度の人たちがカウンターに行列をつくっていたとしても、安心して並ぶことになります。それはマクドナルドの高度な効率性によって、十人程度ならどのくらいの時間で自分の番がまわってくるかを計算することができるからです。ここが店の混み具合によって、自分の番がいつ来るのかわからない、他のレストランや喫茶店等との最大の違いです。

もちろん、ハンバーガーという商品の性質上、食事自体の時間もそれほどかかりませんから、何時までに食事が終わるという時間の計算もできます。私たちが昼休みを半分しか使わずに食事ができると確信できる外食産業の代表格、それがマクドナルドであるわけです。

一般に、外食産業はメニューを増やし、お客さんに選択幅を広く与えることを考えます。ロイヤルホストにしてもびっくりドンキーにしてもガストにしても、席に座り、メニューを見ながらどれにしようかとあれこれ考えることが一つの楽しみです。しかし、マクドナルドは違います。一定のメニュー数から決して増やさないわけですね。せいぜい季節ものの限定メニューがある程度。私たちはメニュー選びに迷う必要がありません。

また、メニューが限定されているということは、単品とセットもののメニューの違いによるお得度の計算も、客にとって容易であるという機能をもちます。ハンバーガーとドリンクだけじゃなくて、少しだけポテトも食べたいな……というときに、ハンバーガーとドリンクを単品で頼むのと、ポテトもついたセットで頼むのと、どの程度金額が異なるのかということが一目瞭然です。考える余地なく、「今日は我慢しよう」とか「じゃあセットで!」と言わせてしまう構造になっているわけです。

このように、マクドナルドは限定的なメニューによって、客に様々な〈計算可能性〉を保障しているのです。同じことは牛丼の吉野屋や一部のラーメンチェーン店などにもいえます。待つことやわずらわしいことが嫌いな客層には、とても重宝されるわけです。

第三に〈予測可能性〉。マクドナルドは全国一律同じ味です。北海道に旅行に行っても沖縄に旅行に行っても、蟹が入っていたりゴーヤが入っていることはありません。あの特別においしくはないけれど、それほどまずいというわけでもないあの味が、全国津々浦々、どこでも食べられます。それはつまり、マクドナルドに行こうと思うと同時に、あの味を楽しめるという見通しがもてることを意味します。また、店舗の構造においても、北海道から沖縄まで、どの店舗もそれほどの違いがありません。安心して入店することができるわけですね。

更に大事なことは、マクドナルドではいやな思いをすることがない、という見通しをもてることです。どの店舗に行っても、必ず一律の笑顔で「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」から始まる無機質な会話しかなされないことが保障されています。

コンビニの店員のように、人によってだらだらとした態度が見られたり、レジの会計に時間がかかってイライラするというようなこともありません。店員の完全な均質化が保障されていて、嫌な思いをしないような笑顔の接客と決してこちら側に入り込まれない無機質さとが共存しているわけです。これも見通しがもてることの大切な要素といえます。

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