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熊本紀行

Mevius1Mevius2_2今回の熊本紀行。まず第一に印象的だったのは、新千歳空港に着いて喫煙所で見たMEVIUS(=マイルドセブン)のポスターだった。「誰もが、しばしば自分の視野の限界を世界の限界だと思い込んでしまうものだ。(思想家/ドイツ)」とあった。僕が『教師力アップ 成功の極意』(明治図書)で強調し、様々な講座でもよく語る「明後日の思想」と同じ理念だ。

帰宅して調べてみると、ショーペンハウアーの言葉であるらしい。しかも、このあとに「しかし、幾人かの人は決してそうではない。彼らの仲間になりなさい。」と続くらしい。いま流行の「対話」という概念も、この心構えをみんながもてるようになることを目指しているに違いない。

手帳にドイツ思想の名言をメモし、ポスターの写真を撮ったところで、喫煙所でPCを開き、「相棒」SEASON 4の第7話を見始める。

Img_107352_8591104_1実はいま、『「相棒」に学ぶ教育論』という本を書いている。そのために年末からずーっと「相棒」を見続けている。杉下右京の教育に活かせそうな台詞、活かせそうな発想を収集するためだ。そのためにはまず、何はともあれ全話を見直さなければならない。暇な時間、隙間時間のほとんどをこの作業に当てている。約1ヶ月でSEASON 4までは完了しそうなので、あと1ヶ月半といったところか。

41atuyc31nl__sl500_aa300_飛行機に搭乗するとともに、大塚英志『物語消費論改』(アスキー新書/2012.12)を読み始める。「物語消費論」は「スクールカースト」や「マクドナルド化」とともに、この構造を知らずに教壇に立ってはいけないと考えているほど、僕にとっては重要概念である。20年以上の時を隔て、大塚がどのように「物語消費論」を発展させたのか、興味津々である。

61fgdymhgzl__sl500_aa300_ちなみに、1989年に刊行された「物語消費論」のオリジナルはこちら。当時もいまも、僕にとっては衝撃的な本である。

シートベルト着用サインが消え、PCが使えるようになるとともに、「相棒」の続きを見る。本当は「物語消費論改」を読み続けたいのだが、それは避ける。

Photo_2僕にとって「物語消費論改」は隙間時間がなくても絶対に読む本である。しかし、「相棒」は一度妥協して見なくても良いかという発想になってしまうと、きっとさぼり癖がついてしまう。そうするとこの本は出ないかもしれない。結果、編集者に迷惑をかけることになる。僕はそういう自分の性向をよく知っている。だから、こういうときにはやりたくなくても、「相棒」モードに自分を強引に戻すのだ。こういう自分をよく理解しての仕事の仕方をしなければならない。

羽田乗り換え。搭乗口の移動が1300メートル。合間は30分弱。遠い。1本煙草も吸いたい。参った。しかもキャリーバッグにPCバッグをもち、更にコートは北海道の冬用である。汗が噴き出すほどに急いで歩いた。

乗り換えのために急いでいる途中、向こうから僕をまじまじと見ている70歳前後のおじさんがいた。おじさんはどんどん僕に近寄ってくる。僕とおじさんの間が10メートルを切った頃、おじさつんは明らかに僕に話しかけようとしていることに気がつく。でも、そのおじさんに見覚えはない。かつての研究会の参加者だろうか。僕が失念しているだけか。でも、こんなに年配の参加者なんているだろうか。そもそもこんな年配の参加者なら忘れないのではないか。そんなことを考えていたら、おじさんが言った。

Enn1204251130008p1「ああ、びっくりした。尾崎紀世彦かと思った。」

馬鹿を言うな。去年死んだじゃないか。びっくりしたのはこっちだ。そんなことで他人を惑わすんじゃない!

4番搭乗口から熊本行きに乗り、「物語消費論改」、シートベルト着用サインが消えて「相棒」、再びサインがついて「物語消費論改」を繰り返し、熊本空港に着く。気温12度。雪なし。札幌を出たときにはマイナス8度。積雪3メートル近く。この差はなんだ。ほんとに同じ国か。

リムジンバスでホテルへ。その後、がらかぶ(かさご)の刺身と辛子レンコンで地元の「れいざん」を一杯。去年の熊本に来たときに一人で入ったBarに行ってカナディアンクラブ。Barのママは「来年も来るからね」と言った僕の言葉をちゃんと覚えていて、店に入った途端に「ああ、札幌の……」の言葉。なんと嬉しい。

20時過ぎに桃崎さんと合流。熊本の銘酒を飲みながら、楽しく会話。白石さん合流。辻川さん合流。大塚夫妻とすずけんさん合流。佐藤幸司さんも合流。すずけんさんにからんだような気がするし、幸司さんにCDをもらったような気がするけれど、たぶん10時過ぎくらいからは記憶がない。記憶が飛んだのは数年ぶりか。

それでも、ちゃんとモーニングコールはセットしたようで、8:15に起こされる。完全な二日酔い。今日の講座が午後からで良かった。

10時に会場に着く。白石さんの講座があり、その後、熊本大学の齋藤靖先生の講座。フーコーを引きながら僕らが体感している認識の枠組みの話。そしてそこにな言語が果たす役割の話。ちょうど前日にショーペンハウアーの言葉に出逢っていたので、ちょっと運命的なものを感じる。

齋藤先生の講座が終わり、さすがに具合の悪さを我慢しきれなくなってきた。なにせ会場は80人以上の熱気で熱い。二日酔いには耐えられない。それでカメラをもって散歩に出た。

Hodoukyou1Hodoukyou2会場近くに歩道橋があった。こんな歩道橋だ。

前日の夜に乗ったタクシーの運転手さんの話によると、熊本市では熊本城近くにあり、文化的・歴史的な場所と繁華街とを結ぶ象徴的な歩道橋であるらしい。確かに昇ってみると、四方の熊本の町並みを見渡せる。

Hodoukyou4_2Hodoukyou3_16しかし、下を見るとけっこうゴミが落ちている。

まさに「あ~あ」という気持ちになる。おそらく繁華街へと向かう人たちが悪気なく、当然のことのように捨ててしまったのに違いない。

Hodoukyou5きわめつけはこれだ。これでは意味をなさない。

「道徳的実践力」と言うけれど、実践力の前には認識力がある。問題がそこに存在するということに気付けなければ、行動のしようがない。認識力は実践力の前提なのである。まさに、「誰もが、しばしば自分の視野の限界を世界の限界だと思い込んでしまうものだ。」だろう。

ところが、人間は余裕がないと認識の視野が狭くなる。例えば、30分で1300メートルを移動しなければならない、おじさんとの余計な会話に興じている暇はない、そくんな状況の中でたとえ羽田空港の点字ブロックがずれていたとしても、絶対に気づくことなどできない。人の気持ちに余裕がなければならない、社会に余裕がなければならない、世の中に余裕がなければならないというのは、要するにこういうことなのだ。せかせかした社会、みんなが余裕のない社会は、絶対にマイノリティに優しくなれない。家族や恋人、友人といった狭い価値観に閉じこもりがちになる。そういうものなのだ。

政治も行政もマスコミも教育も、こういう視点に立って考えた方がいい。特に教師は、子どもたちから心の余裕を奪ってはいないか、ということにもっと自覚的であるべきだ。

というわけで、午後の講座は、新千歳空港のMEVIUSのポスターと熊本の歩道橋の写真とを枕にすることにした。僕には珍しい道徳の講座である。

前に立って参加者を見てみると、女性が6割をゆうに超えている。「マクドナルド化」と「昭和から平成の若者の性意識」の変遷の個訓点津を用意していたが、女性が多かったので後者はやめた。「マクドナルド化」と「環境調整型権力」の話に切り替えた。多くの女性には僕の「性意識の変遷」の話は刺激的すぎる。この御時世、あらぬ誤解を与えてもいけない。ただし、道徳はもちろん、現在の学校教育を考えるうえでは、インターネットと性刺激の問題は避けて通れない問題だということは意識した方が良い。

夜はセミナーが終わり次第、宴会が始まるまでの時間、17時過ぎから辻川さんやすずけんさんといっしょに一杯。特に福岡から平河力さんが来ていたので話し込む。18時半からは宴会。ここからは名前を出さないが、長崎の教頭先生や期限付き採用の女の子、地元の熱心な若い女の子、そして橋本先生とも1年振りにまたじっくりと会話を楽しみました。

二次会(三次会?)は恒例の「ビアホールMAN」。佐藤幸司さんと高田保彦さんがタイガーマスクのマスク(レプリカではなく本物です)をかぶってはしゃいでいました。個人情報保護法があるので名前は書きませんが、長崎県のある女性教師(中学校体育)が去年に引き続きものすごいパワーでした。

23:30頃お開きとなったので、再び、一人で、昨日行ったBarに行き、カナディアンクラブを飲みました。タカ&トシのトシにものすごく似ている客と、ジッタリン・ジンの春川玲子にものすごく似ている客と、ママとバイトのアヤちゃんとプロレスや落語の話で盛り上がり、1時過ぎにホテルに戻りました。メールを確認し、30分ほど講座の準備をして2時半頃寝ました。

熊本3日目。ALL堀裕嗣講座は50名以上の参加者。これまた女性が7割を超えていました。またまた「性意識の変遷」の話は封印。僕がよくやっている、例の「失恋」のワールド・カフェを体験してもらって、「環境管理型権力」によるコミュニケーション能力の醸成について補強しました。また、国語の模擬授業で僕の授業づくりの考え方を体験してもらって、3時間ほどの講座を終えました。

その後、桃崎さんと高田さんといっしょに熊本ラーメンの黒亭へ。30分行列に並んだ甲斐ありの、にんにくの効いたうまいトンコツでした。面は細麺ストレート。ちょっと山頭火のラーメンの雰囲気にコクをたしたような、そんな趣でした。

その後、熊本空港から羽田、羽田から新千歳と、また「物語消費論改」と「相棒」をお伴に帰ってきました。いろいろな意味で密度の高い熊本紀行でした。

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