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『スペシャリスト直伝!教師力アップ 成功の極意』

121009cover 近日刊行『スペシャリスト直伝!教師力アップ 成功の極意』堀裕嗣著・明治図書

まえがき

TWITTERを始めたのは2011年の春のことです。

学級経営や生徒指導など、教師としての仕事の在り方を140字以内にまとめて軽い気持ちでアップすると、思いの外多くの反応が返ってきました。一つツイートを上げる度にコメントが寄せられたり、お気に入りに登録されたり、リツイートされたり……。

最初はそうした反応がただおもしろくて、どんどんツイートを重ねていたのですが、次第に疑問を抱くようになっていきました。それは教師にとって耳ざわりの良いツイートについてはずいぶん多くの反応があるのですが、教師を批判するツイートについては明らかに反応がにぶいのです。

「ああ、この人たちは自分のツイートを癒やしに使っている……」

そんなことを感じたものです。

実は私のツイートには、無条件に教師を応援するものなど一つもありません。むしろ、一般的な教師の在り方に批判的なものばかりで構成しているというのが他ならぬ私自身の実感です。しかし、140字という限定された表現の在り方が、そしてひと目見ては流れていく情報としての処理のされ方が、私の意図を超えて耳ざわりの良いものに見え、口当たりの良いものとして機能してしまう……そういう現実がありました。

本書は、私がTWITTERでつぶやいたもののうち、リツイートの多かったものを40ツイート抽出して、それぞれに解説を施したものです。どれも学級経営や教師としての在り方の心構えを提示しています。その意味では教育技術の極意というよりは、教師としての構えの極意になっています。

私は既に、学級経営の技術については『学級経営10の原理・100の原則』を、生徒指導の技術については『生徒指導10の原理・100の原則』(ともに学事出版)を上梓しています。本書はそれらの教育技術がどのような理念・思想に支えられているのか、その基盤についてできるだけわかりやすくということを念頭に書きました。どうぞ両著とともにお読みいただければ幸いです。

本書は5つの章で構成しました。

第1章は「教師の資質」と題して、すべての教師が共通して目指すべき5つの資質について私の考えを述べました。「いつも笑顔でいること」「孤独に耐える力をもつこと」「無駄とわかっていることに取り組めること」「子どもといっしょに馬鹿げたことを一生懸命にやるのを楽しめること」「いつでも変われること」の5つです。私はこの5つをすべての教師が身につけたら、教育問題はすべて解決するのではないかとさえ感じています。

第2章は「教師の姿勢」と題した、子どもや保護者と接するうえでの心構え集です。教育現場でよく見られるネガティヴな事象を取り上げて、その対策がどうあるべきか、どのような考え方のもとに対応していくべきかについて述べています。

第3章は「教師の職場」と題して、主に同僚との関係をどのように築きながら仕事を進めていくべきか、その勘所について述べています。また、現在の職員室に多く見られるネガティヴな構造の所以を指摘するとともに、その対策もできるだけ提示しようと心がけました。

第4章は「教師の成長」、第5章は「教師の表現」と題して、若い教師がどのように力量形成を図っていけばよいのか、どのように表現を洗練させていけばよいのか、そのコツを私が経験した実際のエピソードや資料をふんだんに用いて、私なりの見解を提示したつもりです。

本書が右も左もわからない新卒教師に、若さで乗り切ることに限界を感じ始めた中堅教師に、最近の子どもがわからなくなつたと嘆くベテラン教師に、総じて学級経営や生徒指導に悩んだり不安を感じたりしているすべての教師に、少しでもお役に立てるなら、それは望外の幸甚です。

【目次】

第1章 教師の資質 力量アップの基礎-全ての教師が目指すべき5つの資質-

1.教師には5つの資質が必要である

2.いつも上機嫌な大人として立つ

3.孤独に耐えながらいつも笑っている

4.無駄もまた楽しむ

5.無意味も継続すると意味をもつ

6.自信がないと成長できない

第2章 教師の姿勢 心構えの極意-子どもや保護者との接し方-

1.ヒドゥン・カリキュラムを意識する

2.怒鳴ることは最終手段である

3.自分のキャラクターを分析する

4.成果を挙げるには続けなければならない

5.結果を出すことに貪欲にならなければならない

6.何でもできると思ったら大間違いである

7.コントロールしきることは不可能である

8.自らの経験を絶対視しない

9.子どもに「不意に」をつくる

10.自らの「在り方」を問う

第3章 教師の職場 コミュニケーションの極意-同僚との関係づくり・仕事の進め方-

1.学級経営は相対的に評価される

2.「正しすぎる論理」は括弧に括る

3.違いを認め合い、補い合う

4.教師も生徒も肯定的に見る

5.仕事の本質は「認められること」である

6.「おまかせします」と言ってみよう

7.「適度な抵抗」を乗り越える

8.脚本を書き演技しなければ評価されない

9.指導力不足教員に必要なのは研修であって排除ではない

10.「不在」を嘆かず、「不在」に飢える

11.死ぬくらいなら逃げてください

12.複数の師をもつ

第4章 教師の成長 力量アップの極意-自らの成長を実感しよう-

1.〈システム〉を構築してこそ一人前になれる

2.「健全な野心」をもつ

3.教師の敵は「慣れ」と「過信」である

4.発展途上人にこそ学ぶべきである

5.「徹底さ」と「大胆さ」をあわせもつ

6.四つの〈シコウ〉を旨とする

7.「自らの成長を実感すること」以上の楽しみはない

第5章 教師の表現 伝え方の極意-魂の載った言葉を語ろう-

1.一人で研究授業・研究協議をする

2.定番の自己紹介ネタをもつ

3.文章に教師の成長があらわれる

4.教師は文章を書き続けなければならない

5.魂の載った、生々しい言葉を語る

あとがき

編集担当の及川さんには申し訳ないのですが、いま、本書を書き上げてみて、「この本は売れないだろうなあ……」と感じています(笑)。

それは読者が知りたいだろうなあということを想定して書くのではなく、私が書きたいことを書き散らしたという感があるからです。これまでで私という教師の「人間」が最もよく出ている本になっていることは確かですが、それが教育書としてどうなのかと著者自身も懐疑的であるというのが正直なところです。

しかし、本書は何と言いますか、見ようによっては価値のある一冊なのではないか、という感慨を抱いてしまうのも確かです。それは本書が「本音だけでできている」という特徴をもっているからです。

一般に教育書を書く場合には、若者向きの本だからとか、世の中にはいろいろな教師がいるからとか、女性教師が読んでも実践できるような内容をとか、様々な要因で大袈裟に強調したりバランスをとったりということがあるものです。本書にはそうしたことが一切ありません。その意味では、少なくとも稀(まれ)な教育書ではあるかも知れません。

依頼をいただいたときには、編集者も著者自身もこんな本が出来上がるとはまったく想定していませんでした。しかし、「スペシャリスト直伝!」のシリーズに一冊くらい、こんな異色の構成の本があっても良いのではないかと、いまは開き直っています。

次の本はかっちりとプロットを立てて書くことをお約束するので、今回だけは許してください。 

さて、本書を執筆するにあたっては、学生時代から現在に至るまで、私が教師を志してから三十年近くにわたって書き残してきた様々な記録、資料を繙くことになりました。学生時代に書いたレポートから子どもたちの作文や同僚との写真、果ては恩師に向けて書いた弔辞に至るまで、資料庫になっているロッカーを引っかき回しました。この経緯があったおかげで、本書執筆が自分の教師としての力量形成を省みる、貴重な機会となりました。

思えば、教職を志して以来、多くの方々と出逢い、多くの方々の影響を受けてここまでやってきたのだと改めて深い感慨を抱いた次第です。これまでの書と異なり、お世話になった方々のお名前はすべて本文に掲載してありますので、ここで重ねてお名前を上げることは致しません。

しかし、1986年から2001年までの15年にわたって、私という人間を導いてくれた師匠森田茂之の影響を改めて実感する機会となったことは確かです。自分はこれほどまでに幸せな大学生活を送っていたのだな、あの四年間が間違いなくいまだに私を成長させ続けているのだなという思いが、腹の底から湧き上がってきた感じが致します。

森田よ、ありがとう。来世でまた一杯やるのを楽しみにしています。肴は相も変わらずホッケの開きとイカの一夜干しで……。

教師としての在り方は、その教師がどんな人と出逢ってきたかで決まります。私は幸いにも良き人たちと出逢い、いまなお熱心で有能な人たちに囲まれています。家族や友人はもちろん、職場でも研究会でもです。

今後、いまだ見(まみ)えていない人たちとどんな出逢いをすることになるのか、どんなふうにつながって、どんなものが生み出されていくのか、そんな期待に胸を躍らせる自分を実感しながら、あとがきとさせていただきます。 

布施明/シクラメンのかほり を聴きながら…
2012年9月10日 自宅書斎にて 堀  裕 嗣

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