『生徒指導10の原理・100の原則』
『生徒指導10の原理・100の原則~気になる子にも指導が通る110のメソッド』堀裕嗣著/学事出版
まえがき
生徒指導ができる教師─その概念が変わってきているように感じています。
かつては角刈りで強面、声が大きく目つきの鋭い男性教師……こういったイメージでした。その代表は四十代半ばくらいの体育教師。生徒たちが悪いことをすれば一喝し、生徒たちの壁となって学校の規範を代表する、そんな教師が「生徒指導のできる教師」だったわけです。
いつの頃からか、こうした教師たちの指導が生徒たちに通らなくなってきました。別に生徒たちがこうした教師たちに反抗しているわけではありません。この手の教師が怒鳴り始めれば、多くの生徒たちは神妙な顔つきになります。その場で反省もします。指導が落ちていないわけでもありません。指導内容がその場では〈落ちる〉のに、〈通る〉ことはないのです。
生徒たちは指導された次の日にはもうけろりとして、強面教師に「せんせ、せんせ」とまとわりついていきます。その教師が見ている前でもかまわず大騒ぎをします。教師側から見ると、昨日指導されたことは、昨日指導を受けたことによって既に終わっているのだと言わんばかりの不遜な態度に見えます。しかし、実態はそうではありません。彼らに一切の悪気はないのです。
例えば、こんな生徒を見たことはないでしょうか。
清掃時間に箒をもって、教室入り口で廊下にいる友達とおしゃべりに花を咲かせている。「ちゃんと掃きなさい」と注意すると、「あっ、いけない」という表情をして床を掃き始める。でも数分後、またその子を見てみると、今度は窓際で掃除当番の子とおしゃべりしている。「おいっ、さっき注意したばかりじゃないか」と注意すると、「すいませ~ん」と言って掃除を始める。今度は目を光らせているのでなんとか最後まで掃除をやりとげる。掃除の反省会でも、「今度からおしゃべりをしないで掃除に集中したいと思います」などと平然という。なのに次の日の清掃の時間には、また廊下の友達とおしゃべりを始めている。担任が横に行って顔をのぞき込むと、一瞬ポカンとした表情のあと、「あっ、すいません」などと言って床を掃き始める……。
みなさんの学級にこんな生徒はいないでしょうか。おそらく、たくさんいるのではないでしょうか。指導がその場では〈落ちる〉のに〈通らない〉というこうした生徒たちが、いま学校で多数派を占めているのではないかとさえ思われるほどです。
いわゆる〈脱・社会生徒〉の登場です。
昔から学校教育では、問題傾向生徒を分類する用語として、〈反・社会生徒〉〈非・社会生徒〉が用いられてきました。前者は学校規範に馴染めず教師に反抗するタイプの生徒たち、後者は学校規範に馴染めずひきこもり傾向に陥る生徒たちを表していました。非行生徒が前者の代表なら、後者の代表は不登校生徒でした。
しかし、最近、我々教師が最も手を焼く生徒たちは、悪気なく学校規範におさまらない生徒たち、即ち〈脱・社会〉の生徒たちです。彼ら彼女らは強面教師の説教やカウンセリングマインドに基づいた相談活動では行動が改まりません。もちろんその場では理解しますが、その後の行動が改まるということはないのです。
彼らを指導し、行動にまで影響を与えられるのは、むしろエンターテインメント性を発揮して彼らを楽しませることができ、「学校規範などではなく、きみたちのことを一番に考えているよ」という一見綺麗事とも思われる熱い姿勢を常日頃から演じ続けることのできる、〈サービス業的視座〉をもった教師たちです。そして私には、そうした教師たちこそが、現在、「生徒指導のできる教師」になってきているように思えるのです。
本書は、私の考える、このような「生徒指導のできる教師」像を前提に執筆しました。また、時代の要請ともいわれる教師の〈チーム力〉についても大きく意識しました。本書が、右も左もわからない新卒教師に、若さで乗り切ることに限界を感じ始めた中堅教師に、最近の子どもがわからなくなつたと嘆くベテラン教師に、総じて生徒指導に悩んだりの不安を感じたりしているすべての教師に、少しでもお役に立てるなら、それは望外の幸せです。
【目次】
第1章 生徒指導を機能させる10の原理
スクール・カーストの原理
サイレント・マジョリティの原理
ヒドゥン・カリキュラムの原理
ブロークン・ウィンドウズの原理
イニシアティヴの原理
インクルージョンの原理
マクドナルド化の原理
パッチング・ケアの原理
FMCチームワークの原理
自己キャラクターの原理
第2章 生徒指導を機能させる100の原則
基本として身につけたい10の原則
生徒を観察する10の原則
生徒との距離を調整する10の原則
事実を確認する10の原則
生徒を説得する10の原則
現場に対応する10の原則
保護者に対応する10の原則
年度当初に徹底する10の原則
自分の現状を知る10の原則
自らの身を守る10の原則
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「結びつき」の強いクラスをつくる50のアイデア(2016.03.11)
- 著作一覧(2016.03.05)
- 『若手育成 10の鉄則・100の言葉がけ』(2016.03.05)
- 国語科授業づくり10の原理・100の言語技術 義務教育で培う国語学力(2016.03.05)
- 「THE 教師力」シリーズ関連(2016.12.31)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント