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『学級経営10の原理・100の原則』

9784761918088学級経営10の原理・100の原則~困難な毎日を乗り切る110のメソッド』堀裕嗣著/学事出版

まえがき

失敗が許されなくなった

かつて新卒教師は失敗を重ねながら力量を高めていきました。

同僚も保護者も、新卒教師を温かく見守ってくれました。学級PTAの役員も新卒さんのクラスはすぐに決まる、そういうことがよく見られました。そして生徒たちも若く、元気なお兄さん先生やお姉さん先生を大好きでいてくれました。それが当たり前でした。

そんなに昔のことではありません。私が教師になったのは一九九一年のことですが、二十年前にはまだそういう雰囲気がありました。私もまた新卒時代、同僚にも保護者にも「堀くん、堀くん」と可愛がってもらった一人なのです。学年主任には飲みに連れ出され、保護者との呑み会も年に何度も行われ、家庭訪問に行くと寿司や焼き肉でもてなそうとする家庭があったものです。  それがいつの頃か変わってきました。同僚は自らの仕事をこなすのに精一杯。忙しそうで、なかなか仕事について尋ねることができません。学校に親近感を抱いてくれる、協力的な保護者がまだまだたくさんいるというのに、学校はそういう人を基準にしてではなく、クレームをつけてくる一部の保護者にいかにクレームをつけさせないかという基準で動くようになりました。「学級崩壊」「指導力不足教員」「不適格教員」という言葉もマスコミを闊歩しました。保護者はもちろん、生徒たちも、そんな時代のなか、お兄さん先生やお姉さん先生を「頼りない」と評価するようになっていきました。

この時代をひと言でいうなら、「失敗が許されなくなった」のです。ミスを犯すと同僚から迷惑がられる、上司に呼び出されて注意を受ける、保護者からクレームを受ける、生徒たちにあきれられる、そういう雰囲気が学校を包み込むようになったのです。

成功し続ける者だけが賞賛される

周りは「新卒さんだから……」と優しい目で見てくれなくなりました。

しかし、この状況にさらされているのは新卒教師ばかりではありません。

「あれで教師か。まったくあきれてしまう……」

「なんだあの先生はベテランのくせに……」

「あんなのが校長やってんの?学校が開けるはずだ……」

どの世代、どの地位にある者も、優しい目、尊敬のまなざしなど向けてはもらえない時代になったのです。

普通に親近感をもってもらえる、普通に先生としての尊厳を維持できる、それは成功し続ける者だけです。いいえ、成功し続ける者は賞賛も得られるようになりました。教員評価制度による給与格差によって、少しだけとはいえ収入が増えます。生徒も保護者も「あの先生はいい先生らしい」という噂が地域に広がり、学級開きのスタートからやりやすい雰囲気が出来上がっています。教師にもイメージ戦略が必要となる時代になったのでは、と感じてしまうほどです。

しかし、成功し続けられる教師など、ごくごくわずか。ほんのひと握りのスーパー教師だけです。だからこそ教員評価制度の給与格差も成り立つわけですから。

一方、勤務している学校でひとたびマイナスイメージがついてしまうと、少しくらいの成長、少しくらいの成功では、そのイメージをなかなか払拭できない、そういう傾向も見られます。

まったく難しい時代になったものだと感じます。

学級をマネジメントするためのシステムを構築する

ちまたには、成功を目指した「こうすれば……できる」とか「できる教師の……」とかいう指南書があふれています。確かにその著者はもともと「できる人」ですから、そうした手法でやることによってうまくいくのでしょう。それを参考にすることは決して無益ではありません。

しかし、いまの時代、何より必要なことは「成功すること」ではなく、「失敗しないこと」なのです。学級経営でいえば、まず必要なのはすごくいい学級をつくることではなく、まずまず大過なくやることができる、そういう能力です。

非凡な教師は、平凡なことを徹底してやったうえで、その上で非凡なことに取り組んでいるのです。平凡なこと、つまりやらなければならない当たり前のことをしないままに、非凡なこと、つまりやらなくてもいいのだがやったほうがいいことに取り組むのはナンセンスです。いいえ、ときに害悪にさえなります。「あの先生は特殊なことをやっている……」というわけです。

新卒であろうと中堅であろうとベテランであろうと、まずしなければならないのは「失敗しない学級経営システム」を構築することです。それに成功を目指す、学級経営の潤いを目指すような取り組みが加わればなお良い、そういうものなのです。

若手教師はまずこうしたシステムを学ぶべきです。

安定的な学級経営システムをもっていない中堅教師も、いまそれなりに失敗しないで済んでいるのは、あなたがまだ若いからです。もう少しして、生徒との心理的距離が離れてくると学級経営が立ち行かなくなっていきます。いまのうちに失敗しないためのシステムがどうつくられているのかを学ぶべきです。

かつての栄光にすがりながら安定的な学級経営システムを敷かずに、学級経営に失敗してしまい、教師としての限界を感じているベテラン教師がいっぱいいます。やめようか……なんて考えている方も少なからずいらっしゃいます。しかし、実は、まだまだ限界などではありません。学級経営を安定させるのは教師の個人的な資質やキャラクターなどではなく、安定させるためのシステムなのだということを理解し、それを学べばいいのです。

つまり、どの世代にとっても必要なのが、学級をマネジメントするためのシステムなのです。個人的な資質や個人的なキャラクターによる潤いは、その安定した学級経営システムのうえに、学級経営において更に上を目指す、更に豊かな学級経営を目指すためのスキルなのです。これを勘違いしてはいけません。

まずは「成功すること」よりも「失敗しないこと」を目指す。まずは安定を目指す。それも全力で目指す。こんな時代だからこそ、それが求められているのです。

「成功すること」よりもまず「失敗しないこと」を目指す

本書は、まず第一章として、「学級をマネジメントする10の原理」を挙げました。学級経営に関するすべての取り組みにおいて、教師が意識しなければならない原理を十に整理し、主に学級開きを例に紹介しました。この10原理を身につけるだけで、学級経営上に起こっているトラブルの多くが解決されるであろう大切な基本原理です。しかし、この10原理は意外に中堅・ベテラン教師でも身につけていないのが現実です。教職に就く以上は、なんとしても身につけなければならない原理ですし、その気になって取り組めば割と簡単に身につく原理でもあります。

第二章では、学級経営を「学級組織づくり」「席替え」「給食指導」「清掃指導」「ショート・ホームルーム」「リーダー育成」「学力の向上」「家庭訪問」「通知表所見」「職員室の人間関係」という具体的な十の要素に分け、それぞれに十の原則、あわせて百の原則を紹介しました。

どれも学級経営を安定させるための基礎的にして基本的な原理・原則にしぼり、行事指導や生徒指導など場合分けに応じた臨機応変な対応が求められるものではなく、学級担任として四月に生徒の前に立つために、或いは保護者とかかわっていくために準備しておくべき事柄を中心に構成しています。

本書が、右も左もわからないと不安に感じている新卒教師に、若さで乗り切ってきることに限界を感じ始めている中堅教師に、生徒がわからなくなったと嘆いているベテラン教師に少しでも役立つなら、それは望外の幸せです。

【目次】

第1章 学級をマネジメントする10の原理
一時一事の原理[生徒を不安にさせず、全員に指示を徹底する原理]
全体指導の原理[大事なことは全員に。学級のルールをつくる原理]
具体作業の原理[作業で具体的に学ばせる。生徒に自信をもたせる原理]
定着確認の原理[必ず定着度を確認する。一人も置いていかない原理]
具体描写の原理[自分だったらどうするか。教師の語りをつくる原理]
時間指定の原理[暇な時間をつくらせない。作業進度を一致させる原理]
即時対応の原理[すぐに連絡、すぐに対応!行動する教師になる原理]
素行評価の原理[生徒の素顔はどんな顔?教師の観察眼を鍛える原理]
一貫指導の原理[一年間揺るがない指導で生徒の信頼を獲得する原理]
同一歩調の原理[一人で抱えるな。チーム力で進める原理]

第2章 学級をマネジメントする100の原則
学級組織づくり10の原則
席替え10の原則
給食指導10の原則
清掃指導10の原則
ショート・ホームルーム10の原則
リーダー育成10の原則
学力の向上10の原則
家庭訪問10の原則
通知表所見10の原則
職員室の人間関係10の原則

あとがき

平成十七年のことですから、新卒から十五年目のことです。

私は札幌市の小さな学校の学年主任になりました。そこで三学級九十五名の生徒たちを受け持って三年間を過ごしました。この三年間、私の学年には新卒教師が毎年配属されました。特に一年目は担任三人が三十代半ばから後半。副担任は大学出たての新卒が二人。こういう学年団でした。中学校教師ならわかると思いますが、四月、学年の仕事のすべてを担任三人でしなければならない状況に追い込まれたのです。新卒二人に何かをやってくれと頼んでも、一つ一つどうすればいいのかと尋ねられるに決まっています。年度当初、それに丁寧に応えている時間はありません。正直、これはかなわんなあ……と思いました。

しかし、年度当初をなんとか乗り切ると、このままではいけないと思えてきます。この二人を育てないことには仕事が立ちゆかない。当然のことです。私はこの二人を毎日観察しながら、どう育てるか、何を伝えればいいかということを考え続けました。

二年目にはこの二人のうちの一人が二組の担任となり、二年・三年といっしょに持ち上がっていきました。私はこの二年間も、彼がどんなことに失敗し、何に困っているのかを観察し続けました。それと同時にかなり厳しく指導もしました。生半可な新卒なら耐えられなかったかもしれません。しかし、その結果、彼は三年目にはもうそのへんの中堅よりも学年全体のことを考えて動ける教師になっていました。年度当初の学活計画とか、総合の校外学習の計画くらいなら、もう彼は三年目で大過なくやっていました。学級経営も安定し始め、次第に私が厳しく指導することもなくなっていきました。

本書はこの若者を筆頭に、この三年間に新卒教師四人に指導した内容をもとに構成しました。 本書を上梓するにあたって、いまはもう一本立ちしたと言って過言ではないこの四人の若者、高村克憲先生、齋藤大先生、佐藤恵輔先生、仙臺直子先生に感謝の意を伝えたいと思います。また、この学年を三年間、ともに運営し支えてくれた高橋美智子先生にも感謝申し上げます。この五人がいなければ、本書の基本コンセプト自体があり得ませんでした。

もう一つ、本書の内容にあたる原理・原則が固まるまでには様々な紆余曲折もありました。当然のことながらすべてが成功したわけではありません。その意味で、あの三年間に受け持った生徒たちにも感謝を申し上げたいと思います。

最後になりましたが、わがままな私と本書完成までお付き合いいただいた編集の戸田幸子さん、そして味のあるイラストで彩りを添えていただいたイクタケマコトさんに感謝申し上げます。

二○一一年元日 自宅書斎にて 堀  裕 嗣

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