1.「話すこと・聞くこと」領域は基本的に、次の三つに分類できます。①独話/1対多の一方的なコミュニケーション、②対話/1対1の双方向的なコミュニケーション)、③会話/1対小数の双方向的なコミュニケーションの三つです。
2.①独話は講演・講話・演説・スピーチ・プレゼテーションなど、②対話は問答・質疑応答・面接・インタビューなど、③会話は話し合い・座談会・討議・討論などです。パネルやディベート、シンポジウムなども会話の一種です。また、電話のようにその機能自体が必然的に対話を促すツールもあります。
3.私はこの三つのコミュニケーション形態を、授業においては使い分けています。即ち、対話は1対1で話しやすいので意欲の喚起に、独話は自分自身ですべての責任を負わなければならないので言語技術の指導に、そして会話は様々な視点で意見交流ができるので思考を促すときに、というようにです。これが基本だと思っています。もちろん、これらを組み合わせての応用編というのもありますが。
4.私は「言語技術」の指導には「独話」が向いていると考えていますから、基本的に私の「話すこと」の言語技術のほとんどは「独話」が想定されています。私の提案しているのは、次のような5系列20の技術です。
5.【基礎系列】…「話すこと」において前提となる基礎的な技術・態度/姿勢・呼吸・発声・口形
6. 【抑揚系列】…話を一本調子にしないために、声や速度に変化をつけて話す技術/声量の大小・速度の緩急・声音の高低・適切な間
7. 【構成系列】…話をわかりやすくするために、話題を提示する順番を組み立てて話す技術/IBC・ナンバリング・ラベリング・オリエンテーション
8. 【叙述系列】…話のディテール(細部)を豊かにして、話の説得力を高める技術/エピソード・データ・オブジェクション・ツール
9. 【聴衆系列】…話し手と聞き手との心理的な距離を近づけて、聞き手に聞く構えをもたせる技術/アイコンタクト・ジェスチャー・ダイアログ・ユーモア
10.授業づくりには領域別にこうした原理・原則があります。しかし、そうした原理・原則を勉強することなく、考えることもなく、曖昧なままに感覚的に授業づくりをしている教師が多いのです。
11.原理・原則は多くの場合、諸派によって違いがありません。授業づくりの歴史を繙いてみると、大村はまと斉藤喜博と向山洋一が同じことを言っているという例が数多あります。その意味で、勉強したいと思うならば、運動論イメージによる差別は頭の中から払拭しなければなりません。
12.〈洞察力〉は一般に、冷徹な目で物事を見抜いたり、先を見通したりする眼力のことです。
13.子どもを見る目にしても同僚を見る目にしても、教師には「温かい眼差し」が必要と言われます。子どもたちが何かトラブルを起こしたときに冷徹な目で叱りつけるだけとか、「どうしてあんな子がいるのかしら」と投げ出してしまうとか、そんなことをしてはいけません。また、いっしょに仕事をしていくうえで、「あの先生は○○だからしょうがない」というレッテルを貼ることは人間関係をギスギスしたものにしてしまい、仕事を停滞させてしまいます。職員室には「協働」の精神が絶対に必要です。
14.しかし、「冷徹な目」で見抜いたり見通したりということが、「温かい眼差し」と矛盾すると考えてはなりません。温かさを実現するために冷徹に接しなければならないとか、温かな眼差しを向けているからこそ、物事を見抜いたり先を見通して仕事をしなければならないとかという場面は多々あります。
15.温かさを温かさだけで発揮しようとしたために、結果的にかえって子どもや同僚を傷つけてしまう……そんな事例がたくさんあります。温かさとか冷たさとかというものは、実は「過程」と「結果」との両方の視点で考える必要があります。「過程」の温かさが「結果」としての冷たさにつながるとか、「過程」として冷たく接したが故に「結果」としての温かさにつながるとか、そういうことがたくさんあるのです。
16.例えば、子どもにちょっとした変化が表れます。良い変化でも悪い変化でも構いません。ふだんは大人しい子が係活動の掲示物づくりでちょっとしたリーダーシップをとっているとか、ある子がいままではなかったのに名札にキラキラ光る小さなシールをつけているとか、そんな些細な変化です。
17.こんなとき、教師は微笑ましく思ったりちょっとだけ気にしたりしますが、特に何も言わず、特に何も行動を起こさないということが少なくありません。しかし、こうしたちょっとした変化をとらえたときに、「三ヶ月後を見通そう」という意識をもてるか否かが、教師の〈洞察力〉のキモなのです。
18.前者であれば、その場で「○○さんは~が得意なんだねえ。良いセンスしてるなあ」と褒め、「たとえば、この場合はどうなの?」と詳しく聞いてコミュニケーションをとります。更に、近いうちにこの子のこの特技を生かせる行事や学級活動場面がないかと、すぐに今後の予定に頭を思い浮かべます。少し無理をしてでも、この子の特技を発揮させる場面をつくろう……そう考えなくてはなりません。
19.後者であれば、いまは名札のシールだけれど、二週間後はどうなるだろうか、一ヶ月後はどうなるだろうか、と考えるべきです。何かお洒落をしたくなる理由ができたのか、友人関係に変化はないか、そうしたことを話せるような場を設定しなければならないのです。
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21.仕事上の〈洞察力〉の最たるものは、仕事の〈優先順位〉をとらえられるか否かにあります。
22.一般には、個人的な仕事よりも全体に関わる仕事の方が優先順位が高く、個人で完結する仕事よりも自分が仕事を終えればそれを他の人が引き継ぐというタイプの仕事の方が優先順位が高くなります。簡単に言えば、学年の仕事よりも校務分掌、学級の仕事よりも学年の仕事、そういうことになるわけですね。ただし、命に関わるような生徒指導、子どもや保護者との信頼関係を損ねる怖れのある案件については、全体にかかわる仕事に優先させて構いません。これが原則です。
23.しかし、原則は原則として大切なことですが、仕事の〈優先順位〉というものが刻一刻と変化するものであることも事実です。特に生徒指導や保護者対応は生き物ですから、一時間前なら優先順位が低かったのに、いまこの瞬間には何よりも優先順位が高くなっているとか、昨日なら優先順位が高かったのに、一日遅れてしまったがためにもう様子を見ること以外に手立てがなくなってしまっているとか、そういうことが少なくありません。その瞬間瞬間で的確な判断が必要だとよく言われますが、それはこういう構造に依拠しています。一般に「仕事ができない」と言われる人には、この感覚が欠落しているのです。
24.仕事というものは、オールorナッシングで考えてはいけません。百点の仕事もなければ0点の仕事もないのです。比喩的に言えば、70点の仕事の仕方と60点の仕事の仕方があったら、常に70点の仕事の在り方を選ぶ、しかも、一度その判断を下したらあれこれ迷わずに一心にその方向で取り組む、それがコツです。
25.冷徹な目で〈優先順位〉を推し量り、判断したら大胆に行動する、それが〈洞察〉のもたらす力です。
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