教室ファシリテーション10のアイテム・100のステップ
『教室ファシリテーション10のアイテム・100のステップ~授業への参加意欲が劇的に高まる110のメソッド』
いよいよ発売まで1週間ほどとなりました。今回はまえがきを掲載します。
まえがき
かつて子どもたちは教師が語り出せば静かに聞きました。
私が教職に就いたのは1991年のことです。右も左もわからぬまま中学1年生を担任した私は、まわりの先生の見様見真似と、自分がかつて学んできた担任の先生のイメージとを融合することで、なんとなく学級担任として子どもたちの前に立っていました。スキルもなく、人間的にも未熟で、いま考えると申し訳ないような学級経営であり教科運営でした。
しかし、ひとたび私が語り出せば、どんなにざわついていても教室はスーッと静かになり、子とちは私に顔を向けてくれました。先生が何か言おうとしている。ちゃんと聞かなくちゃ……子どもたちはそういう表情を向けてくれました。それがあたりまえでした。
そんな子どもたちが変わってきたのは、いつの頃だったでしょうか。おそらく90年代末から2000年代初頭にかけてのことだったように思います。
先生の話を聞けない子どもたちが登場します。聞かないのではありません。聞けないのです。 椅子に座っていられない子どもたちが登場します。座らないのではありません。座っていられないのです。悪気はないのです。かつての校内暴力世代のように、意識的に教師に反抗しているのではないのです。反抗してくるのではあれば、教師はその子と人間関係をつくり、「まあ、しゃーねーから堀の言うことは聞いてやるか」という状態に導くことができます。彼らは話を聞けなかったり椅子に座っていられなかったりするわけではありませんから、教師との信頼関係が築けたときには指導に従います。しかし、聞けない子、座っていられない子は、別に教師が嫌いなわけではありません。それどころか人なつっこく、学校や教師が大好きであることさえ珍しくはありません。それでもやはり聞けないし、座っていられないのです。
当時、この現象は「子どもの変容」と言われました。「学級崩壊・学校崩壊」という語がメディアを闊歩しました。行政からは「生きる力」「心の教育」が叫ばれました。「管理教育批判」の世論が雲散霧消していきました。その代わり、「指導力不足教員」「不適格教員」の語がマスコミを賑わすようになりました。「子どもの変容」論は「保護者の変容」論にまで拡散し、「モンスター・ペアレンツ」なる語まで発明される始末……。
しかし、こうした現象は、たった一つの観点を変えるだけで別の見方ができたのです。そのことに学校教育は気づけませんでした。いいえ、いまだに気づけてはいません。それが学校教育にとってあまりにも当然のことであり、あまりにも学校教育の基幹として長く続いてきたために、誰もそれを疑うことができないのです。
それはひと言でいうなら、「学校のあらゆる教育活動が座学だけでできている」ということです。子どもたちは学校に来ると、ごくごく一部の行事や総合の体験学習を除いて、ただただ黙って椅子に座り、先生の話を聞き、ノートをとり、先生の期待に添う発言をすることを求められます。先生は授業において、子どもたちが自分の話を真剣に聴いてくれることを当然の前提とし、家庭において子どもたちが復習しなければ学習の成果は上がらないという理屈で動いています。保護者もその成果を上げるために協力するのが当然という理屈で動いています。それがシステムとして、意識的・無意識的に強制力をもっています。ですから、そこから逸脱する子どもたちや保護者たちは「問題傾向の子」「問題ありの親」というレッテルを貼られるのです。
この、これまで当然と思われていた学校教育システム、授業システムが〈制度疲労〉を起こしているのです。もちろん、授業から座学をすべて排除するなどということはできません。授業の中心は知識の伝達であり技術の継承ですから、それは不可能なことです。しかし、「座学だけでできている多くの授業」を「座学中心だけれど交流場面も必ずある授業」に転換できないでしょうか。この明らかに〈制度疲労〉を起こしているシステムを少しだけ、現代的な子どもたちの実態にあわせてシフトしてみてはいかがでしょうか。
〈教室ファシリテーション〉はこうした発想から生まれた提案なのです。
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