ストップモーション授業検討のこと……
2009年の年末、確か12月26日、クリスマス明けの土曜日だったと思う。
国語科授業づくりセミナーと銘打って、小学校教師二人にストップモーション授業検討をかけたことがあった。最初に1時間ほどの国語学力に関するぼくの講座、その後、若手教師による30分の説明文の模擬授業、続いて90分間のストップモーション授業検討、これが午前中。午後は若手教師による30分の物語の模擬授業、続いて90分間のストップモーション授業検討、最後に45分程度のQ&Aという日程だったと思う。
ストップモーションにあたっては、ぼくと森くんと大谷さんと南山さんと裕章さんと山下くんと……大野さんもいたかもしれない。いずれにしても、かなり厳しいコメントをする人間が揃っていたはずだ。国語教育連盟の高橋伸さんとか仙台の指導主事早坂さんとか、参加者も錚々たるメンバーがいたように記憶している。
模擬授業者は午前の説明文が斎藤佳太くん、午後の物語が太田充紀くんだった。もちろん二人ともそれなりに練って授業をつくってきたのだが、二人とも布きれのようにボロボロにされた。本人たちにとっては立ち上がれなくなるような厳しさだったろう。明らかに彼らの表情はこわばっていた。その表情がいまでも目に浮かぶ。
それから1年半がたって、今年の7月。ぼくは太田くんにもう一度ストップモーションをかける機会を設けた。驚くばかりの成長ぶりだった。あの日、指摘されたことがほとんどすべて修正されていた。見事な授業だった。太田くんはあの経験を活かしたのだと感動した。
でも、佳太くんにはぼくは機会を設けなかった。あの日の表情のこわばりは太田くんに比べてどん底、今度失敗したらあいつは立ち直りないに違いない、そんな思いがぼくにその機会を設けさせなかったのだ。あの日、佳太くんはあまりにも指導案を進めることばかりに意識が行きすぎ、学習者役の参加者たちにほとんど意識が向いていなかった。ぼくはそれを指摘し、「その態度は教師失格と言われても仕方ないほど、資質の問題としてダメなことなんだ」とコメントした。佳太くんはその「教師失格」という言葉にショックを受けたようで、ぼくにあんな厳しい言葉をもらって、覚悟を決めてこれから頑張るというメールをくれたのだった。
一般に、人はそう簡単に変われないし、そう簡単に大成長なんて遂げるものではない。そしてぼくは研究会のコメントで絶対にお世辞を言わないということを信条としている。この二つを意識したとき、ぼくは佳太くんに依頼できなかったのだ。だってあいつをつぶしてしまうことになりかねないから。それが怖かったからである。
実は佳太くんはぼくにとって特別な若者である。ぼくにとってはただのサークルメンバーではない。彼はぼくの直の後輩であり、2001年末に54歳の若さで亡くなったぼくの師匠森田茂之の最後のゼミ生なのである。佳太くんにぼくが自信を喪失させてしまうとしたら、それは佳太くんに申し訳ないばかりでなく、いつの日か来世で森田ともう一度一献傾けるときにも顔向けできなくなってしまうのだ。ぼくの中にあったのはそんな思いである。
佳太くんがボロボロにされてこわばっていたあの日から2年近くが経って、今回の今金BRUSHで、ぼくは久し振りに、ほんとうに久し振りに彼の国語の模擬授業を見た。複雑な不安を胸に。
でも、結果は驚くほどのものだった。無駄な言葉がない。参加者の反応を見ながら言葉がけを変えている。テンポも良い。2年前に指摘されていたことはすべて修正されていた。彼の模擬授業を見ながら、南山さんと「佳太、授業うまくなったなあ」と唸っていた。「人はやはり成長するものなんだ。あいつはあの日のことを忘れずに過ごしてきていたんだね。」としみじみと語り合っていた。
太田くんには機会を設け、佳太くんには設けない……。そういう判断をぼくにさせていたのは二人がぼくにどう見えていたのかということに基づいている。太田くんは非常にセンスの良い若者である。精神も強い(少なくともぼくにはそう見える)。しかし、佳太くんは不器用なタイプだ。愚直に一歩一歩進んでいくタイプである。その思いがぼくにこういう判断をさせたのだと思う。
思えば、佳太に機会を与えて良いかとか、自信を喪失させるのではないかとか、森田に顔向けできなくなるのではないかとか、すべて杞憂だったのだ。それどころか、ぼくの考えていたことは佳太に対してあまりにも失礼なことだったのだ。なんとも嬉しくもあり、なんとも反省させられた、そしてあまりにも楽しい今金だった。
ああ、見つけた。あの日のイベントはこれだ。
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