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ロールプレイ・ディスカッション

〈マイクロ・ディベート〉によって、生徒たちが二つの視点から物事を捉えることに慣れてきたら、次に必要なのは〈ロールプレイ・ディスカッション〉です。〈ロールプレイ・ディスカッション〉という語は聞き慣れない語だなあとお思いの読者がいらっしゃるかも知れません。聞き慣れないのは当然です。私の造語ですから。意味は文字通り、〈ロールプレイ〉を通して〈ディスカッション〉することです。

みなさんは「模擬裁判」をご存知だろうと思います。裁判官・検察側・弁護側・被告人・証人・被害者遺族等の役割演技をしながら、裁判の在り方について検討したり、事件そのものについて検討したり、或いは思考の枠組みの在り方について検討したりするのに用いられる手法です。 〈ロールプレイ・ディスカッション〉はこの「模擬裁判」に似ています。つまり、様々な役割演技をしながら〈ディスカッション〉することによって、様々な立場による物事に対する捉え方の違いを検討したり、思考の枠組みの在り方について検討したりするための〈ディスカッション〉の一形態ということになります。

私の場合、〈ロールプレイ・ディスカッション〉は二人一組から始めます。最初は例えば、一方が親、もう一方が子どもという役割を担って、子どもの「あれ買って、これ買って」という要求を親が瞬時にあしらい続ける、というような遊び感覚のものから始めます。携帯電話を初めとするパーソナル・メディアをねだるとか、流行りの服を買ってもらおうなどという要求をするわけですね。時間は1分半。終わったら交代します。二人が双方の役割演技を終えたところで、じっくりと〈シェアリング〉をします。どういう受け答えが子どもの反感を買ったか、どうすれば説得力が増したか、そんなことを話し合います。しかし、話し合っているうちに、「うちのお母さんったらねえ……」とか「うちのお父さんはねえ……」とかいった、お互いの両親に対する愛着あふれる品評会になっていきます。これが二人の間に温かい空気を醸成していきます。

次は男女各二人ずつ4人グループ。二人一組で行うのは同じですが、残りの二人が観察者として二人のやりとりを見ています。しかも、同性同士の母と娘の場合と異性同士の父と娘の場合を比較したり、父と息子、母と息子の場合を比較したりということが可能になります。シェアリングは大盛り上がりです。

〈マイクロ・ディベート〉の項でも述べましたが、生徒たちは自ら視座を超えるようなものの見方・考え方があり得るということをなかなか実感することができません。友人同士においては相手を傷つけないような言動を心がけたり、ある種のキャラクターを演じて友人を楽しませたりということを日常的に行っているのですが、公的な場面、公的な課題について議論する場になると途端に独善的な判断で独善的な主張を展開する、ということになりがちです。

〈ロールプレイ・ディスカッション〉はこのような生徒たちの実態に一石を投じる手法です。なんらかの役割を担って演技してみることによって、その立場になって思考してみるという体験を重ねることで視野を広げます。また、〈ロールプレイ〉のあとにじっくりと〈シェアリング〉を行うことによって、ものの見方・考え方の視点を学び合いながら、立場や考え方の違いによる多角的な視点の必要性について自ら気づいていく構造をもっています。いわば、二重に〈メタ認知〉を促す構造をもっているわけです。

例えば、道徳の時間。いじめ自殺が報道されたときに、その記事を複数集めて報道内容を共通理解したうえで、担任教師・被害者の保護者子・加害者の保護者・傍観者の保護者の4つの役割を担って〈ディスカッション〉をします。それも、役割を交代して何度も行う。更にはメンバーを変えてもうワンセット行う。こういう体験が生徒たちの〈メタ認知能力〉を鍛えるとともに、ともに話し合い、理解し合うことが大切であるという雰囲気を醸成していきます。

もちろん現実的には、〈ロールプレイ・ディスカッション〉で議論される内容が、当初は本質的なことに届かない、浅い内容になることも決して少なくありません。しかし、そういう場合、生徒たちも自分たちの議論が浅いということに直感的に気づいていることが多いのです。生徒たちの中に「これではいけない」という雰囲気が生まれます。

実はここがポイントです。いじめ自殺に関する書籍を与えたり、或いはPC室で情報を収集させたりといった活動へと発展させていきます。こうした調べ学習は生徒たちにとって意欲が喚起されているだけに大きく機能します。調べ学習の後に再び行われる〈ロールプレイ・ディスカッション〉は、矛盾をはらんだ解決の難しい問題であるという前提のもと、大人顔負けの議論が展開されるようになります。

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