ペア・インタビュー
新年度、新しい学級を担任します。まず、何はともあれ生徒たちに自己紹介をさせたいと考えます。しかし、これがけっこう難関。おもしろい自己紹介になかなかならないのです。
生徒たちが一人一人、次々に前に出ます。どの生徒もどの生徒も、言うことといえば氏名・趣味・特技・得意教科・苦手教科、最後に「よろしくお願いします」の一言で話をまとめる……その連続です。しかも、中学校では教科担任の中にも自己紹介させる先生がいます。生徒は最初の一週間で自己紹介に飽きてしまいます。そもそもよほどの大規模校でない限り、生徒たちは誰が誰でどんな人なのか、お互いに知っているということも少なくありません。実は生徒たちの自己紹介を必要としているのは、あくまで教師であって生徒ではない、それが現実なのです。
学級開きでどんな活動がなされたかということは、生徒たちにとって非常に大きなインパクトを与えます。新しい学級、新しい担任に対する第一印象を決める活動となるわけですから、そこで「つまんないことをさせられる」ということは、新しい学級、新しい担任との出逢いが「つまんないこと」から始まったというファースト・インパクトを与えることになります。この経験が意識的・無意識的にその後の一年間に影響を与えると言っても過言ではありません。
あなたがもしも、生徒たちが様々な問題を自分たちで解決できるような学級に育てたいとか、或いは学級活動や学校行事に積極的に取り組む生徒たちになって欲しいとか、要するに学級に協同的な雰囲気をつくりたいと願っているならば、学級開きで何気なく行われている自己紹介や学級目標づくり、学級組織づくりといった〈学級システム〉を確立していく段階から協同への布石を打ち始めなくてはなりません。これを明確に意識する必要があります。
もちろん、いきなりダイナミックな活動をさせるのは無理がありますから、①ちょっとした工夫でちょっとした楽しさを共有して学級の空気を温める活動であること、②学級システムや交流システムに裏打ちされた今後に生きるソーシャル・スキルが指向されていること、という二つの方向性を明確に意識する必要があります。
キーワードは「ちょっとした」と「指向されている」です。今後に生きるソーシャル・スキルへの「指向性」を明確にもちながらも、手立てとしては「ちょっとした工夫」であり「ちょっとした楽しさ」であるというところにミソがあるのです。
教師の準備にやたらと時間をかかるのでは長続きしません。準備に時間をかけるというのは、年度当初、教師が張り切っている時期だからこそできることに過ぎません。でもそれは早々に息切れしてしまいます。教師ならだれしも経験のあることです。
また、生徒たちが高いハードルを越えなければならないような活動を年度当初に仕組むのも得策ではありません。どうせ数ヶ月もすれは、様々な教科の授業で高いハードルを越えなければならない毎日が訪れるのです。できるだけ抵抗感の少ない活動にすかるのが良いでしょう。
そしてもう一つ、大事な観点として意識して欲しいことは、年度当初に楽しさの大爆発を経験させることも良くない、ということです。これは意外に思われるかもしれません。しかし、年度当初の生徒たちの期待感も大きな時期にあまりにも大きな楽しさを味わってしまうと、その後、学級に慣れ期待感の薄れてきた時期の活動の一つ一つが見劣りするようになります。もしも担任教師が生徒たちを大爆発するような楽しい活動ネタをもっているのなら、それは6月とか12月とか2月とか、大きな行事がなく、一年間のに中でなんとなく停滞してしまいがちな時期にとっておくべきです。学級づくりというものはこういうことまで計算して行うものなのです。
〈ペア・インタビュー〉はこうした様々な観点から考えて、年度当初に取り組むのにふさわしい、有効なアイテムといえます。隣同士でインタビューをし合い、いわゆる「他己紹介」をし合うという活動ですが、①ペアでのコミュニケーション体験、②他人を紹介する楽しさと緊張感、③他人に紹介される楽しさと照れくささ、④イラスト入りレポートづくりの楽しさ、⑤インタビュー・スキルの基礎・基本、⑥体言止めを交えた文体と、様々な要素を複合させた質の高い活動です。それでいて教師の準備は簡単で、生徒の活動としてはハズレのない、いわゆる「鉄板性」のある活動でもあります。みなさんが学級経営の武器、授業運営の武器の一つとして身につけたとしたら、様々な場面で機能する汎用性の高いアイテムとなるはずです。
また、年度当初の「他己紹介」のみならず、年度当初には分担を決めて教科担任を紹介するグループ・インタビューをしたり、旅行的行事や「総合的な学習の時間」での体験活動ではお世話になった方々へのグループ・インタビューをするなど、発展性のある活動でもあります。
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