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ペア・ディスカッション

年度当初、例えば学級目標をつくるという学活があります。大抵の場合、一人ひとつずつ候補を持ち寄って、それをすべて板書、その中から学級全員で多数決で絞り込んでいく……そんな決め方をしている場合が多いのではないでしょうか。

学校祭・文化祭に向けて、中心的に企画に携わるプロジェクトメンバーを決めるという学活があります。大抵の場合、立候補を募り、それをすべて板書、立候補者の人数が適正なら立候補者全員をプロジェクトメンバーとする、少なければもっと募る、多ければ立候補者全員に意気込みを語らせてプチ選挙のような形で絞り込んでいく……そんな決め方をしている場合が多いのではないでしょうか。

合唱コンクールに向けて、学級で歌う合唱曲を決めるという学活があります。大抵の場合、音楽科から出された候補曲を全員で聴いて、個人個人で一~三番くらいまでを選択、それを集計して候補曲を絞り込み、もう一度それらを聴いて多数決で決めていく……そんな決め方をしている場合が多いのではないでしょうか。

いま三つの例を取り上げましたが、皆さんはこれら三つに共通する悪しき構造が何なのかおわかりでしょうか。それはどれも「決まればいい」という、いわば〈決めること最優先〉の決め方をしているということです。もちろん学級担任はよりよく決まれば良い、生徒たちの思いやアイディアがたくさん出れば良いとは考えています。しかし、これらの決め方にはその「よりよく決まる」ための、或いは「生徒たちの思いやアイディアがたくさん出る」ための手立てがまったく取られていないのです。

こんなふうに考えてみましょう。例えば校内研修会で今年度の研修テーマを決めるために一人ひとつずつ候補を提出することになったとします。どうせ自分のが採用されることはないだろうから、まあ適当に書いて出しておけばいいだろう……そう考える人が職員室全体の何割もいるのではないでしょうか。

例えば公開研究会全体会のアトラクションとして生徒たちに何か出し物をさせることになりました。それを企画するためのプロジェクトチームをつくることなりました。あなたはちょっと興味があるなと感じながらも、自ら立候補するまでもない、そういうのを得意にしている人に任せてしまおう、自分なんかがいても足手まといになるかもしれないし……そんなふうに考えがちなのではないでしょうか。

しかし、これが二人一組で案を一つ提出することとか、二人一組で何かアイディアを一つ出すこととか、二人一組で研究会の日程案の試案をつくってみることとか、こんなふうに提案されていたとしたらどうでしょうか。自分と組むことになったもう一人の先生に対する責任感が生まれて一気に「ちゃんとやらなくちゃ」というものへとならないでしょうか。そして、その先生とああでもないこうでもないと冗談まじりに語り合っているうちにもしかしたら何か良いアイディアが生まれるかも知れない、或いはこの先生とディスカッションすることが勉強になるかも知れない、そんなふうに考えられるようになるのではないでしょうか。そうです。ここにこそ〈ペア・ディスカッション〉の効果があるのです。

読者のみなさんは〈ヒドゥン・カリキュラム〉という語をご存知でしょうか。「教師が意識しないままに教え続けている知識・文化・規範」と定義されます。前著『生徒指導10の原理・100の原則』(学事出版)に書きましたので詳しくはそれちらをお読みいただきたいのですが、私たち教師は意図することも意識することもなく、生徒たちに膨大な知識や規範を教え込んでいます。例えば様々な学級活動において冒頭に挙げたような決め方をしていると、生徒たちは「自分の意見はそうそう採用されることはないから、候補案をまじめに考えなくても良い」とか「できる人やアイディアマンなど、自他共に認めるふさわしい人がリーダーシップをとればいいのだから、自分は立候補する必要がない」などということを学んでしまうのです。それもこれが何度も何度も繰り返されるわけですから、生徒たちに芽生えたこのような思考は回を重ねるごとに強化されていくわけです。

学級担任はこのような構造をよく理解し、それを打開するような手立てを意図的・意識的にとり続けなければならないのです。ちょっとした場面で〈ペア・ディスカッション〉を取り入れて、責任感や当事者意識、更にはモチベーションを高める……教師にしてみれば準備もいらず気軽に取り組めますし、生徒にとっても人数が少なくて抵抗感の少ない話し合い形態ですから、学級の雰囲気づくりには効果の高いアイテムになります。

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