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相手の立場・心情を想定する

1.相手の立場に配慮しないネットコミュニケーション

かつて,米国の掲示板サイト(アメリカYAHOO!)において,一人の心ない日本人の書き込みが米国人を激怒させたことがあった。掲示板参加者の怒りのレスポンスは当日だけで数千件に及んだと言う(1)。

【資料A】
------国際貿易センタービル倒壊は笑えた!/ビルが折れるごとにカウントしてたのってオレだけ?/(よっしゃー片方粉砕!よーし次はもう片方もーって)/でも結局はみんな避難したんだよね。全然,騒ぐほどじゃないし。/国際貿易センタービル倒壊は笑えた。まじで。/ニュース知って,手を叩いてわらったなあ。(以下略)

これが「アメリカYAHOO!」の掲示板に書き込まれたのは2001年9月12日。折も折,9.11テロの翌日だったのである(ただし,本文は翻訳ソフトを用いての英文である)。

さて,この書き込みは,2ちゃんねるのいわゆる「コピペ」と呼ばれる形式で書き込まれたものだった。コピペとは「コピー&ペースト」の略語で,鈴木謙介によれば,2ちゃんねるでは「書き込みのテンプレート」のことを指すと言う。その機能は「相手に対する揶揄であると同時に,それがそもそもテンプレートであるがゆえに場の雰囲気を『茶化す』」ことにもなると言う。つまり,内容的な茶化しと形式的な茶化しとを同時に成立させる,2ちゃんねる特有の修辞であるというわけだ。

テンプレート化するに至るもともとの書き込みは以下である。

【資料B】
------阪神大震○は笑えた!/死者1000人ごとにカウントしてたのってオレだけ?/(よっしゃー2000人突破!よーし次は3000人突破しろーって)/でも結局は6000人しか死んでねえんだよね。全然,騒ぐほどじゃないし。/阪神大震○は笑えた。まじで/ニュース知って,手を叩いてわらったなあ。(以下略)


「アメリカYAHOO!」では,2ちゃんねるに詳しい日本人が,米国人参加者に対して「この書き込みが日本の匿名掲示板に特有の書式であること」「投稿者を無視して欲しいこと」を訴えたが,事態が収束するはずもなく,米マスコミでも報道されるに至った。

この事件は,日本人の「2ちゃんねる」的な匿名性が及ぼす軽薄さ,モラルハザードが巻き起こした国際的な騒動として,記憶しておく必要がある。もちろんこれを読んで怒りを覚えるのはアメリカ人ばかりでなく,多くの日本人が見ても,被害者の立場や心情に思いの至らない下品な記述に怒りを覚えることだろう。

ただし,このような軽薄さ,下品さこそが,昨今問題視されている学校裏サイトや掲示板等に見られる,生徒たちのコミュニケーションの粗雑さと通底していることは確かである。

2.生徒のネット体験の掘り起こし


資料A・Bを題材として,以下のような指導計画を立てて授業実践(中学校3年生/国語科)をおこなった。※道徳での実践も可能と思われる。

【第1時】
①資料Aを配布し,この文章の問題点を箇条書きさせる。
②4人グループで問題点を交流させる。
③各グループに発表させ,板書にまとめる。
④資料Bを配布し,資料Aが2ちゃんねる特有のテンプレートで書かれていることを説明する。
⑤4人グループに資料A・Bを対比させ,更に問題点を交流させる。
⑥各グループに発表させ,板書にまとめる。
⑦各自に200字感想を書かせる。
※次時,携帯電話を所持している者は持参することを確認。

【第2時】
①インターネット上の資料(学校別掲示板から抜粋したもの。自校のものは避ける。)を配布し,問題点を箇条書きさせる。
②4人グループで問題点を交流させる。
③持参した携帯電話の着信メール,自校の学校別掲示板等から同様の問題点をもつメールや書き込みを探す。
※携帯電話をもっていない生徒には,インターネット上の学校別掲示板から抜粋した資料(10種類程度)を与えた。
④見つけたメールや書き込みを引用しながら,その問題点について800字で論述する。

第1時の資料Aを題材とした問題点の交流では,主に内容的な問題点が挙げられる。「多くの被害者を9.11テロに対して,こういう書き込みはひどい」「日本人として恥ずかしい行為である」といった感想をはじめとして,「他人の不幸を笑いものにしている」「不幸な事件を題材と資することで優越感に浸っている」「国際問題に発展してもおかしくないほどに,読み手がどうとらえるかに配慮されていない」などいった問題点が出された。ところが,資料Bを配布すると,内容面ばかりでなく,インターネットの危険性について主に技術的な側面の問題点が検討されることになる。「簡単に素早く文章をつくれるから,深く考えないで書いてしまう」「瞬時に無限の相手に対して一斉に送ることができてしまって,具体的な相手について考えづらい」といった問題点が挙げられた。特にインターネットで誹謗中傷する場合,内容的な引用ばかりでなく,フォーマット自体の引用(テンプレートの引用)が瞬時に可能であり,それがインターネット上のコミュニケーションに独特の「空気」を産み出していることが生徒たちにも実感される。

その結果,インターネットコミュニケーションについて,①読み手の立場・心情を思いやる気持ちが必要であること,②読み手の置かれている文化のレベルまで想定しなければ資料Aのような国際問題に発展しかねない危険性をもっていること,③簡単にメッセージがつくれ,瞬時に複数の相手に送信できることから,内容をよく考えるということが蔑ろになりやすいこと,という3点について教師が説明した。こうしたことを勘案しないと,インターネット上のコミュニケーションはとれないのだという趣旨である。

第2時の生徒のレポートについては,個人情報保護の観点からここでは公開できないが,授業においても生徒に書かせるレポートにおいても,引用文の匿名性を担保することが大切である。ハンドルネーム(インターネット上のニックネーム)でさえ書かせようとしてはいけない。また,レポートを交流させてのフィードバックも避けた方が良い。生徒個々にとって,かなり微妙な問題をはらんでいるだけに,教師はできる限り心理的抵抗を和らげることに腐心しなければならない。文明の利器に伴う問題,生徒に現在起こっている問題の教材化は授業づくりにも大きく影響を与えている。

【注1】『RUNAWAY 暴走するインターネット』鈴木謙介/イースト・プレス/2002年9月/p35~40
※資料A・Bの全文についても同書を参照されたい。

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