灰皿
書斎にべっこう色の小さな灰皿がある。ぼくが日常的に使っているものだ。
直径12センチ強の円形。三方に火の付いた煙草を置くところがある。学生時代、四研にあった灰皿で、ゼミで議論しているさなか、4年間ずーっとこの灰皿を愛用していた。森田が亡くなり、四研を片付けに行ったとき、記念に持ち帰ったものである。そういえば、梶くんは小さなブリキの灰皿を好んで使っていた。あの時間は決して返らないけれど、あの時間がいまなおぼくに強い影響を与えていることは間違いない。いまもっているぼくの幾ばくかの能力はほとんどあの時間につくられたものだ。
4年間、週2回、本気で議論し続けるなんていう機会は人生に二度とないはずである。おそらくぼくや山下くんが毎週のように行われる、こんなにも過密な研究会日程に平気で取り組んでしまえるのはあの4年間で身についたものだ。「耐性」とか「志」とか、そういった大袈裟なものではない。「慣習」というのが最も近い。こういうふうに頭を使う場があることが、議論の場があることが、生産の場があることが当然なのである。
四研は、いつも煙草の煙で空気がくすんでいた。数メートル先にある本棚の背表紙さえ、煙の向こうにかすんだ。そしてそれが、なんともいえない知的な雰囲気を醸し出していた。
いまなお自分の書斎の机上にあるこのべっこう色の灰皿は、そんなぼくの青春期の象徴であり、物理的にも精神的にもぼくの宝である。
※安全地帯の「アトリエ」を聴きながら……。
安全地帯Ⅲ/1984
かつてレコードでもっていた。北海道出身、印象的なバンドの印象的なアルバムである。ものすごく久し振りに聴いたのだが、やはり「恋の予感」も「アトリエ」も名曲だった。ぼくはこの頃、ご多分に漏れず洋楽ばかり聴いていたのだが、初期の安全地帯だけは好きだった。ちょうどカラオケが流行り始めた頃で、だれもかれもが安全地帯を歌っていたような記憶がある。四研の想い出よりはもう少し前のことである。
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