自主研修を企画しよう?
ここしばらく、毎日1本ずつ、かつて雑誌に連載していた教育コラムをアップしているのですが、以下の文章だけは、当時、ちょっと首をかしげたので書いておきます。
基本的に以下の文章は、編集者の求めに応じて書きました。でも、教育雑誌の2頁を使って掲載する価値があるとは、ぼくにはまったく思えませんでした。そもそもこの文章はなんの役にも立たないからです(笑)。書いているぼくが言うのだから間違いない。「今回は夏休み企画! 自主研修の進め方についてレクチャーします。」なんて書いているけれど、こんなレクチャーを必要とする教師が、いったいこの世に何人いるのでしょうか。この文章が役に立つのは、多く見積もっても教師10000人に一人くらいなんじゃないかなあ。それはつまり、ほとんどなんの役にも立たないということです(笑)。
そもそも「自主研修を企画しよう!」っていうタイトルからして胡散臭いですよね。企画する必要ないもんね。
ぼくは以下に書いているようなことをするのが「良い教師」であるとか、「立派な教師」であるとか、まったく思いません。これは敢えて言ってしまえば、「趣味」の領域に入るものだと思っています。まあそれでも、書けと言われれば書くんですけど……(笑)。でも、久し振りに読んでみて、きっとこのやり方って、こういう活動をしている人たちのなかでもあんまり一般的なものではないような気もしてきました。
正直、ぼくのなかで、最も疑問を抱きながら書いた原稿なので、こんな言い訳めいたことを書いてしまいました。何か感想をいただけたら嬉しいです。
【引用開始】
自主研修を企画しよう!
本を読む。「なるほど」と思って真似したみたけれど、いまひとつうまくいかない。研修会に参加する。確かにすごい実践だけれど、いまひとつ自分の問題意識とはズレている。そんな経験はありませんか。
著者の実践には、本の文面にはあらわれてこないような実践のコツ、実践の呼吸があります。研修会の講師は、一般に受け入れられるような最大公約数的に講演内容をつくるものです。本の内容を真似したつもりでもどこかしっくりこなかったり、講師の話がどこかピンと来なかったり、実はそれは当然のことなのです。
では、どうするか。自分の問題意識に沿った研修会を自分で企画すればよいのです。
今回は夏休み企画! 自主研修の進め方についてレクチャーします。
Ⅰ.自主研修の前提として
1.仲間をつくる
あなたには研修仲間がいるでしょうか。学生時代の友人でもよし。同僚でもよし。初任者研修で知り合った、不安を共有する者同士ならなおよし。
何事も一人で始めるのは不安が伴います。一人で続けるのはとても苦しいものです。しかし、いっしょに研修する仲間がいるなら話は別。学生時代のサークル気分で、或いは目標を明確にして本格的に、いずれにしても自主的に研修しようというのなら、絶対に必要なのが仲間なのです。
2.本を読む/手紙を書く
本を読んでいて「なるほど」と思ったり「あれ?」と感じたり、そういうことはよくあることです。そんなとき、多くの人はその「なるほど」や「あれ?」を放っておくものです。そのうちに時間がたって、「なるほど」も「あれ?」も忘却の彼方……。それではいけません。
本の著者紹介には必ず現在の所属先が記されています。中には連絡先が書かれてあるものもあります。「なるほど」や「あれ?」を感じたら、思い切って手紙を書いてみてはどうでしょうか。私の経験から言って9割以上の確率で返信があるものです。一般に教育関係の実践家・研究者というものは、どれだけ有名であっても、実はそんなに〈遠い人〉ではありません。思い切ってコンタクトをとってみれば、割と簡単に手紙のやりとりをする程度の関係はつくれるものなのです。しかも多くの著者はこちらの感想や疑問に丁寧に応えてくれます。
よく考えてみてください。著者だって自分の書いたものに対する反応を歓迎しないわけがないではありませんか。こうした人間関係を築けるか否かは、手紙を書くという行動力を示せるかどうかだけなのです。
3.研修会に参加する
手紙のやりとりをした講師の研修会はもちろんですが、時間の許す限り、できるだけ多くの研修会に参加してみることをお勧めします。返信をくれた講師には挨拶をします。まず間違いなくあなたのことを覚えていて、親しく話をしてくれます。そしてこの人間関係は一生の宝になっていきます。
もう一つ、研修会参加の意義は、仲間をつくれる可能性があることです。研修会には同じような問題意識を抱いている教師たちが参加者として集います。休憩時間や昼食時間にちょっとだけ話をしてみると、同じ地域の教員だったり、同じ悩みを抱えていたり、意気投合して連絡先を交換し合ったり、こういうことが意外にも多いのです。そしてこの人間関係は一生の宝になっていきます。
Ⅱ.レクチャー型研修会の開催について
1.自主的な研修会を企画する
本を読んで、或いは研修会に参加して、「なるほど」「あれ?」など、要するにもっと深く聞きたいという著者・講師があらわれたら、次の著作を待ったり次の講演会を待ったりするのは時間がもったいないというものです。こういうときは思い切って、自分で研修会(講演会)をセッティングしてみてはいかがでしょうか。仲間が二人、要するに自分も含めて三人集まれば、こうした研修会は思いのほか簡単にセッティングできます。
2.条件を確認する
研修会を開催するにはいくつかの条件を確認しなければなりません。即ち①講師料、②会場費、③宣伝費の3つです。会場は市町村の施設を借りると1日借りても1万円程度でおさまる施設が見つかるはずです。宣伝費は自分の住む地域とその周辺にメール便で郵送すると一通80円(A4判封筒)で送ることができます。例えば、私がよく企画する小さな研修会では、講師料が50,000万円、会場費が3,900円(午前・午後/札幌市内の区民センターの小会議室)、宣伝費が40,000円程度(札幌市内及び札幌市近郊の600校)、というものです。必要経費は締めて10万円。これなら2000円会費なら50人、3000円会費なら35人、4000円会費なら25人の参加者を集めれば赤字は出ない計算になります。
講師が遠くに住んでいて交通費がかかるという場合には、講師料+交通費+宿泊費で150,000円になりますから、必要経費が倍になります。この場合には5000円会費で40人がペイラインになります。
自主的な研修会は、たとえ少額だったとしても一度赤字を出してしまうと、どうしてもいやになってしまってその後が続きません。従って、こうした計算はしっかりと行う必要があります。
3.自分たちの登壇機会をつくる
研修会自体は講師の講演が主となりますから、講師の送迎や受付業務をはじめてとして、その他煩雑な仕事が多々あるとはいえ、内容的には講師におまかせですから大きな失敗ということはまずありません。 むしろ、こうした研修会では、自分たちの登壇機会もつくることをお勧めします。もちろん、講演をするというわけではありません。例えば学級経営の研修会だとしたら、まず自分たちが15分ずつ2本の研究発表をする、それに対して講師からのコメントをいただく、そしてその後に講師の90分講演という流れにするのです。こうすれば、自分たちもまた発表内容を一生懸命に考えることによって成長する。しかも、講師からコメントまでいただいて、自分にはなかった視点を学ぶことができる。これが更なる成長を促す。こうした良いサイクルが生まれるのです。
4.研修会事務局と講師との食事会をセッティングする
研修会のあとには、是非とも事務局と講師との食事会(小宴会)をセッティングしましょう。講師が前泊するのであれば、前日でもかまいません。
研修会を開催した動機は、著者や講師に対して「なるほど」や「あれ?」を感じたことでした。それが聞きたくて研修会を開催したわけです。しかし、研修会での講演や講座というものは不特定多数を相手にしますから、講師としてもなかなか本音を言いづらいものです。また、あまりにも細かいところだけを突っつく研修会はかえってマニアックになってしまって、参加者が集まりにくくなってしまいます。
実は「なるほど」や「あれ?」について、講師から細かく話を聞けるのはこの食事会の場なのです。こういう場でしたら、多くの講師が「これはオフレコですよ」といって、「ここたぜけの話」をしてくれるものです。講師が主張していることのデメリット、或いは注意点や留意点、こうしたことを語ってくれることが多いのがお酒の席なのです。自主的に研修会を企画する目的は、むしろ研修会本番よりもこの食事会にあると言っても過言ではないほどです。だからこそ、あくまでも自分たちで自主的に研修会を企画する必要があるのです。
Ⅲ.クリエイション型研修会の開催について
1.構造的に理解する
レクチャー型の研修会5~10回くらい開催すると、一人の講師から話を聞くだけでは物足りなくなってきます。そこで、二人以上の講師を招き、構造的な実践研究を目指す研修会の開催へと進んでいきます。
この際に大切なのは、一見正反対の主張をしているように見える二人の講師を意図的に招くということです。例えば、伝統的・父性的な生徒指導を主張している実践家とカウンセリング・マインドを旨とした生徒指導を主張している実践家とを同じ場に招きます。主張が真逆のように見えますから、ともすると喧嘩でも始まってしまうのではないかと思われがちですが、講師はこういう場に意外と慣れていて、そんなことは絶対にあり得ません。むしろ、両者共に、「原則として父性的な指導が必要とされるが、○○の場合や××の場合にはカウンセリング・マインド的指導が大切になる」といった主張や、「原則としてカウンセリング・マインドを旨とするが、△△の場合には毅然とした態度が必要になる」といった主張が展開されることになります。
こうした主張の在り方を何度も聴いていると、その議論から「場合分け思考」や「臨機応変の意味」といったものが本質的に理解できてくるものです。これが実践研究における「構造的な理解」です。
2.司会者を目指す
複数の講師を招いて行われるクリエイション型の研修会において、最も難しいのは実は司会者です。各々の主張をよく理解していないとできない仕事だからです。最終的にはこの役割を目指したいものです。
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コメント
確かにマニアックな内容ではありますが、私には大変参考になりましたよ。何とか堀さんを富山入りさせたいと思ってはいるのですが・・・。講師料を現物支給で値切ってもいいですか?(笑)
投稿: 門島 伸佳 | 2011年2月27日 (日) 14時46分
満寿泉ですか?
いいですとも、いいですとも(笑)。
投稿: 堀裕嗣 | 2011年2月27日 (日) 19時33分