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保護者を提訴した女性教諭・補足

昨日の「少なくとも現段階では……」という文章に補足を加えておきたい。

今日、幾人かの方々にメールをいただいた。文面はいろいろだが、要するに「野中先生の主張を批判しているのか」という内容である。

答えは「否」である。

昨日の文章で私は何度も「現役教師が……」という書き方をしている。野中先生は「現役教師」ではない。野中先生があのように主張することはまったくもって構わない。

ちょっと考えてみればわかるはずだ。

野中先生は初任者研修担当教諭である。つまり、「教員」に対して責任を負う仕事である。だから、教員の視点、教員の視座に立って、教員を苦しめている一つの要素である保護者クレームを批判することにはある種の正当性、立場的正当性とでもいうべきものがある。私は野中先生の立場なら提訴した教諭にエールを送ってもいいと思う。

しかし、いま現在、子どもに対して、担任をしたり授業をしたりしている「現役教師」は別だ。「現役教師」はいま現在、この瞬間にも、子どもに対して責任をもつ仕事なのである。もちろん、子どもの後方にいる保護者に対しても。

その「現役教師」が司法の判断も出ていない段階で、報道だけを頼りに、自分の周りの事例とリンクさせて、独善的に提訴した教諭を応援するのはいかがなものか、と指摘しているのである。

昨日も書いたことだが、教師は、少なくとも学校においては「権力者」であり「権威者」である。これは教師個々のキャラクターにかかわらず、制度的に、政治的に、システム的に「権力者」であり「権威者」なのである。少なくとも学校システムにおいて、教師は「強者」なのである。

保護者が強くなり教師はどんどん引かざるを得なくなっているとか、多くの若手教師が保護者によって苦しい立場に追い込まれている事例があるとか、子どもが変容してベテラン教師がかつてのやり方では立ちゆかなくなっているとか、これらはすべて「教師の世界観」に過ぎない。いわば「コップの中の議論」に過ぎない。

しかし、今回の場は「司法」なのである。「教師の世界観」のみを盾に軽はずみな議論を展開すべきではない。

例えば、最近、病院において患者が医者や看護師に度を超えた要求をして困っている状況がある、という報道をよく聞く。それを読んで、ぼくもまた、そういうこともあるのだろうなあ……、お医者さんも可愛そうに……と思う。

しかし、それが医療ミスが問題になって訴訟が起きているとしたらどうか。しかも患者が普段から過大な要求ばかりしていたという報道つきでである。ぼくらはこの件に関して、患者の過大要求があったかなかったかではなく、あくまでも医療ミスがあったかなかったかに関心を寄せるはずである。

この教諭の問題も同じである。司法の問題になれば、実際の指導場面で、或いはその後の指導場面で、この女性教諭が何をし、何を言ったかこそをまず問題としなければならない。保護者が俗に言う「うるさい保護者だったかどうか」という問題はそのあとの問題なのである。

こういう問題について、学校長までが「モンスターペアレンツに学校や教師が負けないようにし、教諭が教員を代表して訴訟を行っていると受け止めている」と、あたかも保護者問題のみが問題であるかのような主張を展開して、それが報道されてしまうという現実。これは大問題だと指摘しているのである。

ぼくの違和感の対象は、実はこの提訴した女性教諭にではなく、この学校の学校長にある。女性教諭は直接の当事者である。彼女を批判してあれこれ言うのは可愛そうだろう。しかし、学校長の立場は異なる。今後のこの問題の見通しはもちろん、この問題が今後、全国の教師、全国の学校教育に与える影響にまで責任をもたねばならないはずだ。

本音をいえば、提訴するのもいい、市教委に文書を提出するのもいい、「でも、本当に裁判に勝てるんでしょうね」と念を押したいのである。「負けたら我々に与える影響は大きいですよ」と言っているのである。

しかも、裁判の勝ち負け以上に問題なのは、マスコミ報道のスタンスが今日のところはまだ五分五分報道をしているけれど、今後どうなるかわかりませんよ……ということだ。こういう問題は、結局、事実はどうでもよく、イメージのみが先行するところがある。麻木久仁子が正しいか大桃美代子が正しいかではない。どちらもものすごいイメージダウン。それがマスコミ報道がもたらす結果として一番多いパターンなのだ。

だから早く収束して欲しいと願っているわけである。以上、この件終わり!(笑)

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