チューリップのアップリケ
岡林信康の名曲……というか問題作の一つ、「チューリップのアップリケ」が由紀さおりのアルバム「いきる」(2009)に収録されている。これがとてもいい。
このアルバムでは基本的に、由紀さおりは声色をつくり、幼女を演じている。それが彼女の歌唱力と相俟って、とてもいい仕上がりになっている。いや、これはあくまでぼくの主観であり独断であり偏見であって、岡林信康を古くから聴いている人から見れば、冒涜に聞こえるのかもしれない。
ぼくが小学校から中学校に通っていた頃、「第二次フォークブーム」と呼ばれた時代があった。松山千春、中島みゆき、さだまさし、長渕剛、更にはチャゲ&飛鳥とか雅夢とか岸田智史とか……まあ、それはいいとして、当時のぼくにとって意外だったのは彼らがみな口を揃えて岡林信康の名を口にしたことだった。小中学生が幼いながらも知っているようなかぐや姫とか井上陽水とか吉田拓郎やガロやチューリップやふきのとうではなく、岡林信康とか加川良とか、70年代フォークではなく60年代後半のフォークをオリジンだと主張していたことだった。岡林信康が「フォークの神様」と呼ばれていることも知った。
そしてぼくも、岡林信康を聴いてみた。
「山谷ブルース」も「チューリップのアップリケ」も「手紙」も「くそくらえ節」も、どうも嘘っぽく聞こえて仕方なかった。幼少からのクリスチャンで、大学で神学などを学んだ人間がこんな「山谷」や「被差別部落」のことを本気で歌えるのだろうか。少なくともキリスト者として形成されてきた幼少からの世界観、つまりは日本人離れした世界観でしかこれら日本の現実を捉えられないのではないか……、そんな気がしたのだ。
それから三十数年が経って、由紀さおりにこんな声色で語られると、ぼくがもう四十代になっているという現実と相俟って、妙に納得させられてしまうのである。
由紀さおり/2009
しあわせ/夜の果てまで/ビールの海/あきらめるのが好き/ひみつの恋/いそしぎ/哀しみのソレアード/かくれんぼ/チューリップのアップリケ/回転木馬/真綿のように
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