素行評価の原則
授業である生徒を指名します。指名された生徒が発言します。あなたはそのとき、教師として何を見ているでしょうか。
合唱コンクールの練習をしています。ソプラノの高音が少し下がっているようです。他の3パートを座らせて、ソプラノの高音を調整します。あなたはそのとき、教師としてどこを見ているでしょうか。
授業で発言している生徒は、自分が指名されて頑張って発言しています。なんとか自分の考えていることをわかりやすく説明しようと、思考をフル回転させています。そういう生徒の姿を見ることは、教師にとって一つの喜びです。
しかし、数十人の学級の生徒たちのうち、発言している生徒はたった一人です。もしもこのとき、教師が発言している生徒だけに注目してしまっているとしたら、それはずいぶんともったいない話なのではないでしょうか。
指名されて発言している生徒は、いま脚光を浴びています。思考をフル回転させて、緊張状態にあります。このとき、ほかの生徒たち、すなわちその発言を聞いている側の生徒たちこそが、実はいろいろな表情を見せているのです。
ある生徒は席の少し離れた生徒に向けて手紙を書いているかも知れません。ある生徒はどうしても朝読書の続きが読みたくて、机の下で本を開いているかも知れません。ある生徒は窓の外を眺めながら給食のメニューは何だったかなどと考えているかも知れません。もちろん、多くの生徒たちは発言者の意見を聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾けていることでしょう。
いずれにせよ、こうしたとき、実は緊張状態にない周りの生徒たちにこそ、彼らの「素(す)の状態」が表れているのです。教師にとって、これほどの生徒理解のチャンスはありません。しかも、こうした場面は日常的に、しかも日に何度も何度も訪れるのです。
合唱コンクールの例でも同じです。ソプラノが高音の音取りをしているとき、実は休んでいる他の3パートは休憩タイムになっています。こんなとき、生徒たち個々の合唱コンクールへの意識が垣間見られるのです。ある生徒は真剣にソプラノの響きに耳を傾け、多くの生徒たちは小声でのおしゃべりに花を咲かせる。生徒たちの「素の状態」を理解することができます。
このように「素の状態」の行為を観察して日常的な指導に活かす目をもつこと、これを「素行評価の原則」といいます。
例えば学活時間でやることを終え、時間が5分余ったとします。こんなとき、多くの教師は生徒とのおしゃべりを楽しみながらチャイムが鳴るのを待つ、というのが一般的でしよう。
しかし、こうした場合、「じゃあ、時間が余ったから、おしゃべりタイム。席を立っていいよ。ただし、教室からは出ちゃダメだよ。」と言ってみてはどうでしょうか。生徒たちはこの5分間でいろいろな表情を見せてくれるはずです。
仲が良かったはずの二人がいっしょにいない。何かあったのかもしれない……。
Aくんを中心に5人もの生徒たちが集まっている。最近、Aくんが人望を得ているのだな……。
Bさんはだれとも話をすることなく、一人で漫画を描いている。あんなに外向的だったのにどうしたのだろう……。
「素行評価の原則」で生徒たちを観察するには、素行評価場面を意図的につくり出すことも大切なのです。
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