一時一事の原則
入学式を終えての学活の時間、目の前にはホッとした表情の新入生がいます。
言われたとおりにできるのだろうかと不安に感じながら臨んだ入学式。学級担任のあなたも取り敢えず第一段階をクリアしたなと、新入生同様、ホッとしているところです。
この学活、時間はそう長くはありません。15分とか、20分とか、長くても30分くらいでしょう。なのに配付しなければならないプリントは十数枚。しかも、これは明日提出、これは明後日提出、これとこれは来週の月曜日までに提出と、提出日がまちまちです。
皆さんなら、この学活でプリントを配るとき、どのように配付するでしょうか。
私ならこんなふうに配付します。
「はい、それでは、これからプリントを配ります。たくさんありますから、一枚一枚、確認しながら配っていきます。机のうえは赤ペンとマーキングペン。マーキングペンというのは赤ペン以外の印をつけるペンです。蛍光ペンが蛍光ペンがいいですね。それ以外はすべて鞄にしまってください。」(全員が二本のペン以外を鞄にしまったことを確認する)
「では、一枚目です。」(一列ずつ配付していく)
「このプリントは家庭環境調査を書いてもらうためのプリントです。提出は明日です。プリントの右上に、赤で、『4月8日提出』と書いてください。」(「提出」という文字は板書して教える)
「はい、では、隣の人が書けているかどうか確認し合って下さい。隣の人が言われたとおりに書けていない場合には、どのように書けばいいか教えてあげて下さい。」
「では、マーキングペンを持って下さい。」(全員がマーキングペンを持ったことを確認する)
「真ん中よりもちょっと下の方に『担任が家庭訪問のために使いますので、地図はわかりやすく記入して下さい』とあります。見つけましたか。」
「では、その文をマーキングペンで印をつけて下さい。(全体の動きを確認して)隣の人がマークしているかどうか確認してください。言われたとおりにマークしていない場合は……。」と続けます。
新入生は中学校とはどんなところなのだろうか、こわくはないだろうか、自分はついていけるだろうかと、不安に感じながら入学式当日を迎えます。その入学式が終わり、不安は「明日の準備を忘れずにできるだろうか」ということに移っています。そんなとき、このくらい丁寧に細かく指示しながら、明日しなければならないことを伝えてもらえることによって、新入生の不安は確実に和らいでいきます。これならば、すべてを自分で覚えなくても、保護者にプリントを渡すだけで保護者に伝わる……そういう思いが安心感を生むのです。
さて、この際、指示に用いているのが「一時一事の原則」です。一度に一つのことしか指示しない、次の指示は全員が一つ目に指示されたことをやり終えたことを確認したあとに提示する、そういう指示の原則です。向山洋一先生が提示し、「教育技術の法則化運動」によって全国に普及しました。
この「一時一事の原則」という指示の在り方は、小学校のみならず、中学校でも大切にしなければならない指導言の技術の筆頭です。生徒たちの信頼を得るためにも、学級経営をスムーズに進展させていくためにも必須の教育技術といえます。
授業で作業指示を与えたり、行事で全員を動かす場合など応用範囲も広く、むしろ生徒の人数が多くなれば多くなるほどその効力を発揮する原理ということができます。中学校の学級担任として、或いは教師として、まずはじめに身に付けなければならないのがこの「一時一事の原則」なのだと言っても過言ではないでしょう。
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