読むこと/読解教材
【1日目】
模擬授業7/水戸ちひろ先生
水戸先生の魅力はなんといっても、独特の語り口調と独特なスローテンポで、他の人にはつくれない、これまた独特の空気で教室を包み込んでしまう、これまたこれまた独特の手法である。いや、手法というよりはキャラクターというべきか。それなのに、飲み会ではキャピキャピでチャキチャキでバリバリである。このギャップがまた楽しめる、不思議な授業者である。
今回の授業は「わすれられないおくりもの」を用いた主題把握の授業。登場人物を列挙させ、中心人物を設定し、更に中心事件をも設定してその前後の中心人物の変容を捉えさせて主題把握へと導く、典型的な「他教材転移型学力」を想定した授業である。
「活用型授業モデル」としては、今回の指導要領が最も典型的と捉えているであろう(ぼくの認識でいうと最も狭いレベルの)「活用」の授業である。
とはいえ、小集団で中心人物の変容点を自己決定させ、それを交流させて議論させる手法には安定感があった。現在、道内で最も多くストップモーション授業検討に晒されている授業者らしい、そして飲み会では普通の娘なのに授業になると不思議ちゃんになってしまう授業者らしい、独特の安定感と独特の雰囲気をもった授業だった。
こんなことを書いても彼女の授業を見たことのない読者にはまったく伝わらないことは百も承知なのだが、他に書きようがないのである。ただ、この雰囲気がおもしろいと評価されるのもおそらく今年度限りだろうから(笑)、来年度は別の世界を見せねばならない、彼女にとって勝負の年になるだろう。
なんか芸能人に対する評論みたいだが、こういう言い方が一番的を射ているように感じられる。
模擬授業8/森岡達昭先生
前回の記事の木下先生の授業講評でも書いたが、言語技術の項目を挙げることと、実際にそれを使って言語活動に取り組むこととの間にはかなりの距離がある。これも「これは教えたね、さあやってみろ」型の授業だった。
扱ったのは定番教材いぬいとみこの「川とノリオ」。しかも他社教科書で習っている「川とノリオ」未読の同い年の子に推薦文を書こうという発信型授業。この動機付けの施し方が外発型だったという問題点は解説者の石川晋先生が指摘した通り。
推薦文を書くうえでどのような言語技術(森岡先生は「アイテム」という用語を使用)が必要かを挙げさせ、それらを確認したうえで「さあ、書いてみろ」。言葉は悪いが、ちょっと乱暴な印象。ここにも木下先生同様、スモールステップの視点が欲しいと感じた。
これで夏から秋にかけて森岡先生の模擬授業を3本見せていただいたことになる。しかも、1本目は説明文、2本目は詩、3本目は物語と文種の異なる3本である。
夏の説明文の授業はよく練られていて及第点を超える提案性と安定感があった。しかし、2本目の詩と3本目の物語はどうも課題のほうが目立った感がある。
おそらく、文学教材に対する教材研究、それも教材解釈レベルの、もっといえば素材研究レベルの取り組みが不足しているのである。少なくとも文学教材については、もう少し教材自体と格闘する経験を積んだほうがいい。
授業技術や授業者としての語りについては、回を重ねるごとに著しい成長が見られているので、そろそろ授業理念的なことと教材研究的なことにも取り組むべき時期が来ているということだ。ちゃんと読めていれば、授業が変わってくるはずである。
模擬授業9/坂本奈央美先生
夏の二つのイベントのそれぞれで1回ずつ模擬授業をした坂本先生。また、その前に6月にも函館で彼女の模擬授業を受けたことがある。今回はぼくにとって4回目の彼女の授業である。
あまり口数の多くない人なので(ぼくの前だけなのかもしれないが)、意見を求められて助言しても、正直、彼女が理解しているのか理解していないのか、これまで、ぼくにははかりかねているところがあった。
しかし、今回の模擬授業を見て、前に指導されたことを彼女がほぼ完璧に理解していたことが証明される形になった。指導されたことはほぼすべて克服されていた。夏から秋にかけて最も歩幅大きく成長したが見られたのは間違いなく坂本先生である。正直、目を見張るほどに驚かされたというのが実感である。夏と今回と、彼女の授業を両方見た方は同じ感想を抱いたに違いない。それはそれは見事な「大変身」である。
佐藤雅彦の論理クイズを導入に紹介して意欲を大きく喚起する。その解答論理を書くという目的を設定する。クイズがおもしろいので、参加者の意欲は頂点に沸騰している。
そこに「クジラの飲み水」という説明文教材を提示して、論理構成を明らかにする。しかも使いたい構成を取り出させるようにと教材をリライトしてくる念の入れようである。それも「問題提起」「仮説1」「仮説2」「結論」「まとめ」の五段構成というのだからおもしろい。これを提示し、この構成で論理クイズの正解論理を説明させようというわけである。
授業展開としては見事というほかない。
ただし、すべて褒められるかというとそうではない。車の両輪の一方である授業構成は素晴らしかったものの、「クジラの飲み水」の五段構成はぼくから見ると誤読である。しかも、「問題提起」「仮説」「結論」まではいいとして、「まとめ」というレベルの異なる用語が並列されているのもまずい。「結論」と「まとめ」はどう異なるのかが最後まで提示されなかったし、それが参加者にはわからなかったはずである。彼女の言いたいこと、彼女の捉えはわからないではない。しかし、一般化できない学習用語は学習用語として成立しない。こういう用語整理は多くの視点から検討されなければならない、実はかなり高度な営みであるということを、おそらく彼女は理解していない。それが今後の大きな課題になるだろう。
とはいえ、夏から秋にかけての坂本先生の成長は、普通の人なら3年かかるような飛躍成長である。次の機会がもしも今回レベルの提案になったとしたら、それは末恐ろしい若手教師ということになる。
どっちに転ぶか、いまから楽しみである。
ちょっとプレッシャーをかけ過ぎだろうか……(笑)。
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