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具体作業の原則

あなたは今年度、一年生を担任することになりました。入学式直前の学活。時間は十五分ほどしか設定されていません。あなたはこの十五分で何を指導するでしょうか。

おそらく教務からは、①出欠確認、②身だしなみの確認、③入学式に対する心構えの指導、④入学式の流れの確認、⑤入学式の並び方・整列の仕方・入退場の仕方の確認、⑥着席・起立の練習、⑦座例の練習などなど、項目だけが並んだ「あれもこれも型」の指示がなされているはずです。

しかし、たった十五分や二十分でこれらのすべてが指導できるでしょうか。

もちろん簡単に説明するだけならばできないことはありません。しかし、相手は入学式直前の新入生です。学級担任とはいっても、まだどんな子どもたちなのかまったくわかりません。中には理解の遅い子、説明だけでは理解できない子もいるかもしれません。ふだんなら理解できても、入学式を控えた緊張感の中で何を言われているのかわからない……なんていう子もいるかもしれません。そんな新入生に向かって、言葉だけで、しかも簡単に説明するというのはどういうものでしょうか。

私は中学校の教員として二十年以上のキャリアがありますが、入学式前の短い学活で、生徒たち全員に教務から提示されているような六つも七つもある指導事項を指導する自信はまったくありません。

この時間、一年生担任として最も考えなければならないことは何でしょうか。それはこの新入生たちに入学式で失敗させない、ということではないでしょうか。

では、入学式は彼らにとって何が成功であり、何が失敗なのでしょう。

中学校の入学式は人生にたった一度の出来事です。両親が揃って参加し、中には祖父母まで参加する場合も少なくありません。両親や祖父母から見て、入学式で我が子が最も光って見えるのはどの場面でしょうか。

そうです。それは入退場時なのです。

新入生代表としてスピーチする生徒ならいざ知らず、多くの生徒にとって入学式での一番の関心事は家族に格好いい入退場を見られるかどうかです。とすれば、この時間の優先順位の第一は格好いい入退場、言い換えるならば胸を張っての堂々とした入退場なのではないでしょうか。

私はこの時間、廊下に全員を入学式の入退場どおりに並ばせて、歩く練習をすることにしています。担任が歩くスピードに合わせて、胸を張って堂々と歩く練習です。

「いいかい?先生はこのスピードで歩くからね。みんなもこのスピードで歩くんだ。胸を張って、あごを引いて、常に同じスピードで堂々と歩くんだ。」と言いながら、廊下をゆうに百メートルくらいは歩きます。そして先頭の子には、「いいかい?先生から二メートル間隔くらいできみたちがついてくるのが一番格好よく見えるんだ。この間隔を縮めてもいけないし、広げてもいけないんだよ。」などと指導します。同様に椅子への座り方、退場の仕方も指導していくことになります。

これだけでもう十二、三分は使ってしまいます。残り時間を使って、「校長先生とかPTA会長さんとか偉い人が挨拶するときに礼をする場面があるけれど、それは周りの人の真似をしていればなんとなくできてしまうから心配するんじゃない。たとえ一人だけ多少遅れたとしても別に目立たないから気にしなくていい。」と言って笑いかけます。こういう言葉に生徒たちは安心して微笑みを返します。

ここでの指導のポイントは、決して言葉だけではなく、具体的に本番どおりにやってみる、ということです。これを「具体作業の原則」と言います。

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