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話すこと・聞くこと・2

【2日目】

模擬授業13/太田充紀先生

「まだ多少酒気を帯びておりますが……」というひと言で始まった太田先生の授業。そりゃそうだろう。前日は1時まで飲んでいたのだから。この時間、ぼくもかなりクラクラしていた。

さて、授業は「看図作文」のスピーチへの応用。教材は絵本からとった熊の描かれた4枚の絵。それを用いて4人一組で物語を創作して発表するという授業形態。

絵図は秀逸。トップダウン型授業を志向して与えたタイトルも秀逸。ただ実際に体験してみて、小グループで一つの物語を話し合いでつくっていくという活動は意外と難しい……というよりも無理があるという気がした。一人でつくるほうが思考は活性化したのかもしれない。

もちろん、授業時間が長ければいろいろなアイディアが出始めたのかもしれない。しかし、トップダウンでタイトルを与えている点、事前に4枚の絵から2枚を選ばせてしまっていた点という2点の縛りがきつすぎて、物語創作に自由度が欠けてしまい、あまりおもしろい物語が出てこなかったという印象がある。

時間が45分程度あれば、個人個人が物語を創作し、4人グループで交流。グループで一番いいものが全体発表へ……という流れになっただろうと思う。この流れなら、おそらく3割程度は突拍子もない物語、つまりユーモア満点の外挿が導入された世界観が出てきたに違いないと思う。

いずれにしても、「看図」をスピーチに応用した点、外挿を用いた物語法という理念をしっかりともっていた点、小集団でのグループ創作を実験してみた点、模擬授業の語りのうまさ等々、30代半ばの中堅らしい提案性の高さが見られた。

模擬授業14/柳谷直明先生

柳谷先生、久し振りの累積登壇である。調べてみると3年半振りであるようだ。管理職に昇進したあとも国語科授業研究に熱心に取り組み、今年度からは「鍛国研」の全国大会をまわし始めている。ぼくにもよくわかるけれど、こういう活動を継続するということは大変なことである。道内実践家の一方の雄である。

授業は「モチモチの木」を用いた主題討論の授業。主題を「勇気」とおさえた後、豆太の「勇気」を最も体現している一文を探し、論拠とともに討論する授業。発問のあと第一次自己決定をさせ、机間巡視で反応を拾い、指名計画を立てて討論させる。しかも、学資勇者の意見の中から対立を導いていき、発言の構成や枕詞もユーモアをまじえて指導するなど、一斉指導の典型的技術がすべて駆使されている、柳谷先生らしい授業だった。

ぼくも最近よく言っているのだが、こうした基本的な一斉指導をできない若手教師が増えている。21世紀になってからこの傾向が大きくなってきている。おそらくこれはまずいことだ。

具体的には、課題を与えて反応整理をしたあと、すぐに4人グループや6人グループにすべてを預けてしまうという授業があまりにも多い。しかし、すべてを預けてしまうのはまずくて、事前に何に縛りをかけて何に縛りをかけないのかを考えたり、机間指導をしながらうまく機能していないグループに助言したり、途中でどういう指示を与えればどのような論点が浮かび上がるのかを考えたりといったことを、一斉授業を機能させられる教師はやっているわけで、最近の若手の授業にはそれが見られない。

彼らが一斉授業を行うときにも、「発問→指示→活動」が繰り返されるだけで、横のつながりを教師が捌くという場面を見ることがほとんどなくなってきている。それではプログラム学習なんかに近くなってしまう。しかも積み上げのないプログラム学習である。これはまずい。

これを昨日は「見せかけの活性化」という言葉で批判したのだが、やはり授業の基本的な技術は一斉授業の中で培われるのだということを改めて認識させられた授業だった。

模擬授業15/小林智先生

圧巻の授業だった。指導事項は明確、活動のテーマも明快かつ機能的、授業の語りも最高。ベテランとはこういうもの……という象徴的授業である。

まず、小林先生のモデルスピーチがいい。3分のスピーチだったのだが、まったく長く感じられない。小林先生らしいぼくとつとした語りの中に、計算されたユーモア、エピソード、キャッチコピー、聞き手への配慮が盛り込まれ、モデルとしてこれ以上ないという素晴らしいスピーチだった。

この後、参加者から「このスピーチで工夫されていた点」を挙げさせて板書するわけだが、予定外の意見が出てきたときにも独特の間をとってユーモアに変え、会場を沸かせてしまう。まったくベテランの味といってよい。

今回のスピーチ学習はなんと言ってもテーマが秀逸。「これまで生きてきて最も痛かった話」である。これを色画用紙に書かれたキャッチ・コピーを交えて4人グループで話す。必然的に全員が「ボケ」の機能を果たすようになるテーマである。その中で、キャッチコピーやエピソードといった指導事項が必然的に機能するように練られている。

今回の24本の模擬授業の中で、おそらくパッケージとして最も完成度の高い、見事な授業だった。

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