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ゆるい講座

準備1時間。いつもと比べて手抜きの講座……といっては言葉が悪いが、ごくごく簡単につくった講座だった。これの評判がいいというのは、ちょっと複雑。なんとも皮肉。

まあ、詩については学生時代から最も研究(というには半端なのだが)してきた領域で、準備しなくても口頭で語れることが多かったのは確か。また、なにせ本文が短いので、常に全体像を提示しながら細かなことを語れるというのもミソ。やっぱり物語や小説の講座とは一線を画す。おそらくそういうことなのだろう。

今回は21歳のときに綴った自作の詩を教材候補の一つとして提示したのだが、三木露風の「赤とんぼ」、まど・みちおの「キリン」と比べて、ぼくの詩の方がいいと感じてくれた参加者が5人もいた(笑)。嬉しいのは嬉しいのだが、この出来の悪い詩を好んでくれる人がいたのは問題と言えば問題なのかもしれない。

学生時代、年に数編の詩を創作することがゼミのならいだった。毎年、浜益村の民宿でゼミ合宿をする際、二十数名のゼミ生が全員一遍ずつ詩を編む。作者を伏して一覧にした創作詩をみんなで解釈し合い、作者をあてっこする。だれもが楽しみにしている夏のイベントだった。感性の陶冶……創作なくして詩心は感受できない、そんな合い言葉に奮い立ったのを昨日のように想い出す。今回提示したのは、そんなゼミ合宿に提出した創作詩の一つである。大学2年、21歳の作である。

Akikoからもリクエストがあったので、全文をあげておく。

   わすれもの

    なみだ
    ときにかなしくて
    ときにくやしくて
    ときにうれしくて

    放り出されたリュックサック
    机に貼ったシール
    徹夜で縫ったハチマキ
    校庭に折れたミニスキー

    なにもかもがなつかしい
    おおきな
    おおきな
    わすれもの

この詩をいいと言ってくれた参加者には申し訳ないのだが、この詩は駄作である。まず韻律が悪い。論理的にも言葉の結びつきが弱く、直接的な形象性だけに頼り切っている。象徴的な表現も皆無で、読者にとっても作者にとっても何一つ発見がない。センスのない歌詞みたいなものに過ぎない。言ってみれば、昔、「My詩集」でよく見かけたような、甘ったるい詩である。

つくった本人から見れば、あたりまえである。ゼミ合宿の作者あてっこで、自分が作者だとあてられないような甘ったるい詩を、つまりは作者がゼミの女の子だとみんなが思うであろうようなものを、わざとつくって提出したのだから。つまりは遊びでつくった詩なのである。これをまじめに受け取られても困る。

さて、講座である。

今回は講座の全体構成を大きなワークショップとして位置づけた。つまり、詩教材としてのふさわしさとは何かを参加者に考えてもらって交流してもらう。それを受けて、ぼくが詩教材の特性について、良い詩教材とは何かについて、ちょっとしたワークを用いて3点あげる。その3点を学んだうえで、もう一度、冒頭の問いに戻って交流する。こういう構成である。ぼくがよく使う授業構成でもある。

冒頭のワークと最後のワークで変容が見られれば良し。変容が見られなくても、深まっていれば良し。そうした変容分析が授業では評価対象となる。まあ、講座ではそこまでは求めなかったけれど。ただけっこうおもしろい議論が交わされていたのは耳に入ってきたことだけは確か。

スライドは全部で9枚。三編の詩を載せた教材プリントが1枚。たったこれだけで90分。参加者同士の交流が約20分。模擬授業が約30分。「赤とんぼ」のCDをみんなで聞いていた時間が約10分。まあ、長い講座というのはこのくらいのゆるさがちょうどいいのかもしれない。

今年は、これでもかと情報を提示する講座構成を廃して、ゆるい講座ばかりでいこうと思っている。そのほうが参加者も疲れない。そして何より、ぼくも疲れないで済む(笑)。

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コメント

あ!ありがとう!
久しぶりに読めて嬉しいです。
「ふうせん」の表紙は黄色ベースでいろんな色のつぶつぶが入ってる紙で(一緒に新札幌で選んだような気がする)、題字はとしちゃんが書いて、私が出した「りんどう」っていうタイトルは先生に却下されて、あの文集の中で私が一番すごいなと思ったのはKei君の作文。
どう?なかなかの記憶力でしょ。

投稿: Akiko | 2010年1月26日 (火) 21時48分

そうですか。表紙をいっしょに買いに行きましたか。それは覚えてないなあ……。黄色ベースでつぶつぶっていうのは記憶がありますね。題字はUsuiが書いて、「ふうせん」というタイトルはAkikoがつけたと記憶しています。「りんどう」はぼくの実家の近くのスナックの名で、しかもそこのママはぼくの実家の隣の隣に住んでいて、挨拶をしても挨拶を返してくれないタイプ。ツンとしていて気に入らなかったので、却下です(笑)。Keiの作文は「時計」というタイトルでした。
どう?なかなかの記憶力でしょ。
これから「ふうせん」を探してみます。見つかれば、十数年ぶりに見ることになります。

投稿: 堀裕嗣 | 2010年1月26日 (火) 22時18分

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