『こころ』は本当に名作か 正直者の名作案内
「『こころ』は本当に名作か 正直者の名作案内」小谷野敦/新潮新書/2009.04.20
『こころ』が名作かどうかはともかくとして、「第三章 私には疑わしい『名作』」は論になっていない。まあ、論になっていないことを前提に、リーダブルにというコンセプトであろうから、読者も躍起になる必要はないのだろうが、もう少し小屋のらしい切れ味が欲しかった。
当時の社会システムはかくかくであるから、史実と整合の取れないしかじかは名作の名に値しない。
○○教信者であるからこそ了解できる心象であるのに、非○○教である日本人がなぜこんなに名作扱いするのかわからない。
当時の知識人の代表たる作者の逸話によって、あらかじめ大作家が形成され、そのバイアスがかかった目で見たからこそ名作扱いされたのではないか。
それぞれ具体的なその作品、その作家については言えることなのかもしれないが、それらの視点の関係性を見比べたとき、矛盾しはしないか。ぼくは史実に従わない創作があってもいいと思うし、無宗教者が宗教的な葛藤とはこういものかと曲解する読者もありだと思う。問題は史実や宗教といった物語よりも、そうした物語を語り手がどう意識し、どう自己表出するのかを通じて、作家自体の世界観の在り方をさぐることにこそ興味がある。
とはいうものの、「禁煙ファシズムと断固戦う!」と宣言した小谷野はどうしても嫌いになれない(笑)。
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