死刑でいいです…
「死刑でいいです 孤立が生んだ二つの殺人」(共同通信社)を読んでいる。共同通信の二人の記者が上梓した、今年の7月に死刑が執行された山地悠紀夫のノンフィクションである。新聞記者っぽい乾いた文体ではあるが、まずまず人間の深淵をえぐろうとの志が見える。読んでいて、その志が心地よい。
山地はアスペルガーであったようだ。アスペルガー傾向を指摘される殺人犯があらわれるたびに、マスコミは一応の配慮は見せながらも、その他者の心情を理解できないことを危険視する報道を繰り返す。しかし、このノンフィクションの著者はこの件について次のように語る。
「はっきり書くと、障害が事件につながる『リスク要因』の一つだと考える専門家は多い。私たちの見方を示すと、障害は孤立につながる要因だと考えている。」(11頁)
こういう見方をするマスコミ関係者は少ない。また、教育関係者にはこの見方をする者が多い。正しいか正しくないかはわからない。少なくとも、わからない以上はこういう見方もあるという解釈の多様性だけは担保すべきだろう。つまりは、判断を留保し、場合分けで考えねばならない事象であるくらいは言わなければならないはずである。その点で、著者のいう「私たちの見方」は、教育関係者である私には心地よかった……というわけである。
さて、心地よさの対象はあくまで著者であって、記述の対象ではない。
17歳で母親を金属バットで撲殺し、22歳で面識のない姉妹を刺殺した山地。自らのプライドを維持するためか、「反省はしない。控訴もしない。死刑でいいです。」とうそぶいた山地。死刑確定から数年で執行された山地。
遺族には申し訳ないが、もう少し彼の精神の経過を見てみたかった思いに駆られる。宅間守、小林薫、金川真大、山地悠紀夫、そして加藤智大……。死刑が確定すればすぐに死刑が執行される、おそらく今後もそうであるだろう人たち。彼らを心象を分析することは、おそらくこの国に起こっている「若者たちの闇」を私たちが理解するために必要なことだと思うのだが……。死刑の執行はそれからでも遅くはないと思うのだが……。
山地は強姦・強盗・殺人と三つの罪を犯しているが、これら三つの犯行が普通ではない。順番が違うのだ。強盗目的や強姦目的で押し入り、口封じのために殺したのではない。まず刺したのだ。そして刺されて苦しむ女性達に興奮して暴行。更にベランダに出て煙草を一服して悦に入り、逃走資金として財布から金を抜く。こういう順番なのである。
わからない。まったくわからない。私にはまったく、この男の心象が想像できない。だから、知りたい。この順番と、「死刑でいいです」という言葉は、おそらく通底しているはずだから。
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