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1Q84

村上春樹の新作『1Q84』(新潮社/BOOK1・BOOK2各1800円)を読み終えた。

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』や『海辺のカフカ』同様、二視点の並走で始まり、両者がスパイラルに融合していく物語構成である。「青豆」なる女性主人公の物語と「天吾」なる男性主人公の物語とが1章ごと交互に展開するわけだが、この冒頭の1・2章の書き込みが見事である。読者を捕らえて放さない吸引力を遺憾なく発揮しながら、それでいてその後の伏線に溢れている。相当な時間をかけて書き直したはずである。

特に第1章、「青豆」の冒頭はすばらしい。

ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」

「歴史」なるものの意味・意義

首都高の非常階段

左右いびつな顔

ミニスカート・ハイヒール・ストッキング

こうしたアイテムが見事にその後の伏線となっている。

「見たければ勝手に見ればいい。スカートの中の何を見たところで、私という人間が見通せるわけではないのだ」(BOOK1/p27)というメンタリティも、後の展開のそこかしこにあらわれてくる。

ただひとつ。個性的なキャラクター、命を吹き込まれているキャラクターとしてこの章にあらわれる中年のタクシーの運転手、もっと言えば、その後のテーマをストレートに表現するこの運転手が、その後一度も登場しない。これだけが気になった。

ちまたの話題通り、ほんとうにBOOK3があって、そこで展開される物語の主要人物として用意されているのだろうか。いずれにしても、この人物がこのままであるはずがないように思われるのだが……。

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