ルパンの消息/横山秀夫
90年前後に書いた未刊行処女作を15年後に加筆して刊行したものだと言う。処女作を読むと、やはり元・新聞記者らしく、「構想力」の作家なのだなあということがよくわかる作品だった。
冒頭から8割くらいまでは、謎を一つ一つ積み重ねていき、最後の2割でそのすべてを解決してみせる。そんな作品である。
新たな登場人物が出てくるたびにその人物が「謎」として提示され、何気ない会話の中に事件解決の伏線が重層的に配置され、謎の登場人物がその伏線を顕在化させる。その謎の登場人物こそが物語のキーマンだったという結末。しかも、そうした登場人物が複数存在する。見事な構想力である。
長編小説と言えば、あるテーマに沿った知識を体系的に説明することに紙幅を費やすものが多い。例えば、「白鯨」の鯨解説や、「悲の器」の刑法確信犯解説のように。しかも、「悲の器」などは、後にその確信犯理論が専門家から稚拙との批判が出るなど、その体系的説明自体が作品の傷になることも少なくない。
しかし、横山秀夫の「ルパンの消息」は、必要な叙述が必要な分だけ書き込まれた結果とししてこの分量になったという感がある。
ただ、処女作だけあって、人物の描写には難があるように感じられた。登場人物がいまひとつ活きていない。特に高校生を描く回想場面よりも、現在を描く場面にその傾向が強い。きっと作者自身の執筆当時の年齢と力量との両方の理由によるのだろう。
しかしながら、それがこの作品を読む価値を致命的に減じるというものでないことは確かだ。充分読み応えのある傑作、少なくともぼくにはそう感じられた。
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