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唯一のコツ

ひと月ほど前、「書斎日記」に「仲良く、楽しそうにしている大人が身近にいること」という駄文を書いた。この文章がなぜか評判が良くて、プログにコメントがいっぱいつくし、メールで感想がいくつも送られてくるし、ココログでも紹介されるし、様々なブログで取り上げられるしで、書いた本人としてはとても意外な思いを抱いた。

おそらく、多くの教師が「仲良く、楽しそうに」子どもたちの前に立てない現実があり、教師ではない、一般の人たちから見ても教師は「仲良く、楽しそうに」は見えないのだろう。ぼくの駄文が小さな反響を呼んだのはたぶんそのせいなのだと思う。

では、なぜ、多くの教師たちは「仲良く、楽しそうに」していられないのだろうか。

自分一人で常に楽しそうにしていられるほど、人間は個人的な存在ではない。人間は須く関係存在である。「楽しそうにしてい」られるのも、周りの人たちとのかかわりの中で、楽しい会話がなされ、楽しいひとときがあればこそ、いつも「楽しそうにしてい」られるのである。つまり、事の本質は「楽しそう」にあるのではない。「仲良く」の方にあるのだ。

昨年の秋から、仲間たちと数人で「中学校・学級経営セミナー」を開講している。学級経営のシステム、学校祭・合唱コンといった行事の指導、生徒指導のイロハ、学級リーダーの育て方といった、若手担任が問題意識をもつであろう事柄について、ちょっとだけ先輩の我々がきれい事を廃し、本音で、具体的に語る、というコンセプトである。

当初は10人も集まればいいと思っていたのだが、参加者は常に30人前後。毎回、新規の参加者とリピーターとが半々という感じで、これまでの3回で60人程度が参加していることになる。

また、当初は、参加者に若手教師を想定していたのだが、割と年配…というか30代後半から40代の教師もたくさんしていて、こんな海のものとも山のものともわからないセミナーに参加しようとするほどに、学級担任が困難な時代になっているのだなあ、と改めて実感した次第である。

さて、このセミナーには、必ず最後に「Q&A」のコーナーがある。参加者に質問事項を書いてもらって、それを全体の場に出してもらい、ぼくを含めた数人の仲間たちがそれに応えるという形をとっているわけだが、この質問事項の中に殊の外「同僚問題」が多い。つまり、職場の同僚との関係をどうすれば改善できるかというものである。特に、学年団の仲が悪くて学年団が機能しないのだがどうしたらいいかとか、学年団の中に独り善がりの教師がいて学年団の和を乱すのだがどうすればいいかとかいった質問が約半分を占めているのである。これまた、いつの時代も悩みの種の筆頭は人間関係なのだなあ、と改めて実感した次第である。だって、学級経営セミナーと銘打っているのに、出てくる質問が生徒や保護者に関してではなく、同僚に対する悩みだというのだから。

これを聞いてぼくは訊きたくなる。

「あなたの学年の仕事は充実していますか?」と。

仲がいいから仕事が充実するのではない。仕事が充実しているから仲が良くなるのである。職場の同僚が仲の良い者同士が集まった友達集団でない限り、仕事の充実があってこそ人間関係の改善があるのだ。この逆はない。職員室は大学のサークルや井戸端会議集団ではないのである。

ぼくがそういう質問に対してよく言う言葉がある。

「あなたがこの場でそんな質問をしているということは、日常的にそんなふうに思っているということにほかなりません。日常的に思っているということは、職場でもそれが表情や仕草に必ず出ているはずです。とすれば、その独り善がりの先生のせいばかりでなく、あなたも学年によくない雰囲気をつくっている張本人なのですよ。他人を変えることばかり考えていないで、自分も変わることを考えてみてはどうでしょうか。」と。

しかし、これではきれい事である。他人がなかなか変えられないように、自分もまたなかなか変えられないものだ。そこで更に言う。

「まずは、あの人のせいで生徒指導がうまくいかないとか、学年の仲が悪いから物事が前に進まないとか、そんな愚痴をやめることです。そして少しでも具体的な仕事を前に進める努力をしてみることです。できれば、周りの人を一人でも二人でも巻き込んで。だれも仕事がうまくいかないことを喜んでいるわけではありません。成果が出ないから、やっても無駄だと思うから、自分の仕事が徒労に終わると予測されるから、人は我が儘になり怠惰になるのです。まずは時間がかかっても、その負のスパイラルを壊さないことには、学年団は永久に仲良くなれないし、組織として機能することもあり得ません。成果が見えるから、人は努力できるのです。」

ぼくが4年前、学年主任になったときに一番考えたことは、どうやって学年教師に自分たちの仕事が成果を上げていることを実感させるか、ということだった。成果が出ているという実感があるとき、なんだかんだ言っても良い方向に進んでいるという実感があるとき、細かなネガティヴ事象は乗り越えられるものである。人間の心とというものは、そういうふうにできているのである。

繰り返しになるが、仲がいいから仕事が充実するのではない。仕事が充実しているから仲が良くなるのである。決して、その逆はない。

それだけが、ぼくら教師が「仲良く、楽しそうにしてい」られる、唯一のコツである。

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