春の2セミナー終了
28日(土)が中学校・国語科授業づくりセミナー。29日(日)が中学校・学級経営セミナー。ともに会場は「ちえりあ」中研修室1である。28日が二十名強、29日が三十名強。中学校教師だけを集めた学習会としては、よく集まったなという感じ。
「研究集団ことのは」としては、初めての二日連続開催。しかも別コンテンツ。それをさらりとやってのけるのだから、「ことのは」メンバーもたいしたものである。思えばぼくらも、18年もの間、走り続けてきた。いつのまにか、このくらいの提案はできるようになっていたらしい。
28日(土)/中学校・国語科授業づくりセミナー
テーマは「『活用力』を高める言語活動の具体化」。新学習指導要領・国語科の理念と構造をおさえながら、札幌市で採択されている教育出版教科書の「読むこと」教材を用いながら、その授業像を提案していこうというもの。
第一講座はぼく。「新学習指導要領国語科の理念をどう実践化するか」と題された基調講座である。時間は60分。前半は戦後の学習指導要領の変遷を追い、今回の指導要領がどういう位置づけにあるのかを提示。後半は新指導要領に大きく影響を与えたOECDの「PISA型読解力」の理念を解説しながら、「情報の加工」「非連続型テキスト」「指摘・解釈・評価」の授業像をごくごく簡単に提案。これまで、60~90分で語ってきた講座4本分のエッセンスだけでつくった講座である。具体例はその後の6人にまかせて、ぼくは理念と構造を中心に語った。参加者には少し難しかったかもしれない。
第二講座は友利くん。聞くと、「ことのは」イベント初登壇らしい。しかし、講座を聞いてみると、そうとは思えぬ堂々とした話しっぷり。彼は顔で得をしている(笑)。緊張していても緊張しているように見えない。これは笑い話のようだが、教職に就いた者にとっては大きな武器になる。こういう容貌をもっているだけで、新卒からスタートラインが違う。さて、内容は主に「少年の日の思い出」を用いて、エーミールの呼称の変化を追っていく提案。「夏の葬列」や「ウミガメと少年」「故郷」にも発展していける、スタンダードでありながらもかなり大きな提案となった。
第三講座は小木さん。菊池寛の「形」の最後の二文の絵コンテを書かせ、それを交流させることによって最後の二文の意味・意義について考えさせようという実践。習得から活用へという理念を見事に具現化した講座だった。よく、「河童と蛙」や「走れメロス」でイメージ画を描かせる実践があるが、文章を検討させるのに絵コンテを使うという実践は、その根本的発想が異なる。イメージ画は読解の結果として描かれるものであり、絵コンテは読解の導入として用いられる手法である。参加者ともこの点が議論となった。
昼休みをはさんで、第四講座は幹也くん。「ウミガメと少年」の語り手をクローズアップしようという講座。ストーリーとプロットの違いが参加者に落ちたか。そこがポイントとなるタイプの講座である。幹也くんは語り口がソフトでなめらかだからなんとか形になったが、講座担当者と参加者との間の知識のギャップを埋めるのに苦労した講座だった。一度、少人数でいいから、文学教材の「語り」に内容を絞った研究会もやってみたいものである。
第五講座は對馬くん。事前検討をしていなかったので、ちょっと心配な講座だったのだが、「動物の睡眠と暮らし」「ものづくりの知恵」を用いて、細かな言語技術をしっかり習得させようというタイプの講座。その中で要所要所に〈習得的活用〉、つまり、新たなことを習得させるために既習事項を活用させるというタイプの「活用」を配していた。特に、字数指定を変えての要約指導などは、もっと評価され、実践されていい手法だ。
第六講座は森くん。キーワード・ネーミング・小見出しなどなど、内容を象徴したり代表したりするラベルをどう取り出したり創造したりするか、それを「ガイアの知性」「知ることの魅力」という二つの文章に即して解説していく、そういう講座構成である。いつもの森節で参加者を惹きつけてはいたが、「これが活用か」という点になると、ぼくの考えとは異なる。これはばりばりの習得授業だとぼくは思う。ただ、いろいろな考え方を提示し合い、絶対軸をつくらないのが「ことのは流」である。その意味では、こうした提案は全然ありである。そこが「ことのは」が評価される一番の理由である。
第七講座は山下くん。池田晶子の「言葉の力」に挑戦。自殺願望をもつ若者の新聞投書、それに対する反論投書6編を教材化して、まずは道具言語の限界性を顕わにする。その後、実際に参加者にも反論・説得を試みてもらい、更に道具言語の限界性を実感してもらう。こうして初めて、「言葉の力」を読む。こういう構成である。割と文章内容もすっきりと整理して提示し、道具言語と言霊言語という対立を顕在化させることができた。ただ、「活用」を考える場合、「道具言語と言霊言語の二項対立」ということをしった瞬間、その認識がすぐに道具言語化してしまうという論理矛盾を内包している。これを発展的ベクトルとして、「心の構え」としてもたせることができれば、「活用」になり、しかも「国語教育」の完成形にさえなっていくはずである。山下くんにはその夢を追って欲しい。
このセミナーのあと、いつものように「とことん」で小宴。堀・森・山下・幹也・友利の5人のメンバーの他、大谷さんや名古屋の石田くん、今回仙台から参加の早坂さんが加わって8人で和気藹々。更に堀・幹也・友利・石田で円山のバーへ。楽しいひととき。
29日(日)/中学校・学級経営セミナー
「学級開きのポイント/生徒指導のイロハのイ」と題された、中学校の学級経営にしぼった定員30人のセミナー。今年度の活動の半分くらいを占めそうな企画の第1回目である。こうしたセミナーを開くのは、実は参加者のためというよりも自分たちのためである。ふだん何気なく、或いは無意識にやっていることを、講座として成立させようとすると考えなければならなくなる。それがコンテンツとして確立していき、次第に整理されていく。そして整理されると、次の課題が見えてくる。「研究集団ことのは」がこうしたセミナーを開くのは、こういう研究スタイルを確立しているからだ。つまり、今年は学級経営の手法を整理していく1年になる、ということだ。
第一講座はぼく。「学級開きのポイント」と題した90分講座である。「3・7・30・90の法則」について60分ほど、今年度の1年1組の学級システムを紹介。①生徒たちに意識化させること、②生徒たちには意識化させずに教師が感化して感覚的に身につけさせること、それぞれの指導事項がどちらに位置づけるのが効果的なのかということを話す。その他、「学級経営の相対評価」「学年団のチームワークの形成」について提案し、ここで時間切れ。一つ一つをかなり丁寧に、ゆっくりと話したので、今回はぼくの言ったことが伝わったのではないかと思う。
第二講座は山下くんと幹也くんの「学級組織づくりの勘所」。山下くんが職員組織から学級組織まで、その構造をプレゼン。学校運営・学年運営・学級運営のすべてが密接につながっていることを提示した。その後、学級組織をつくっていくための細かな手法について幹也くんが自身の実践を紹介。
第三講座は森くんと幹也くんの「担任と生徒の時間を豊かに過ごすアイディア」。幹也くんがビデオやスライドをもってきて、朝学活や帰り学活、生徒とのコミュニケーションの実際を提示。その後、森くんが学級担任として、見通しを持って時間を使うことの意味・意義を整理して提示。
第四講座は生徒指導ワークショップ。司会の幹也くんが問いを出して参加者に考えさせる。更に参加者同士の交流。そして堀・森・山下が意見を言う。こうした構成。この中で、第一講座で話せなかった「現代的生徒の特徴」について15分ほど話す。幹也くんの問いは3問。「生徒指導に自身はありますか。それはなぜですか。」「子どもウォッチング、意識してウォッチしていることを教えてください。」「最近うまくいった指導事例を一つ紹介してください。」
今回の学級経営セミナーもまずまず。昨年度、この企画の練習を3回していて、これまでにも参加していただいていた参加者には内容的に重なる部分があって申し訳なかったが、今後はほとんど重なりがなくなっていくだろう。このセミナーもまずまず軌道にのったようで、何よりである。
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コメント
宮城県の早坂です。
セミナーのまとめブログを読ませていただき,内容理解がさらに深まりました。
2日間,たくさんのことを学ばせていただき,ありがとうございました。
そのうえ,数年来憧れていた「研究集団ことのは」の方々とサッポロビールクラシックを飲み交わすことができる至福のときを得ることができました。感謝。
「ことのは」のみなさまは,やはり魅力的な方々であり,自由人でした。
今年中にまた何度か足を運び学ばせていただくつもりです。
投稿: 宮城の早坂 | 2009年3月31日 (火) 16時12分
我々は「魅力的な方々」かどうかはともかくとして、「自由人」ではあります。またのお越しをお待ちしております。また、楽しく飲みましょう。
投稿: 堀 | 2009年3月31日 (火) 21時04分
レスポンスありがとうございます。
正直いって,「黄金の三日間」という考え方に違和感を感じながらも,無理やり自分を納得させていたようなところのある僕にとって,
堀先生の「3・7・30・90の法則」は衝撃でした。自分の思考枠が変わりました。
「90の法則については授業づくりセミナーを」ということでしたので,それを自分が受講できる日を楽しみにしています。
セミナーに触発された僕は,宮城に戻ってから野中信行先生の著作を2冊購入して読みました。
そうしているうち,
「学級経営力を高める」の中に,
「北海道の年若き畏友である堀裕嗣(中学教師)に『学校五日制・教師の仕事術』とい著作がある」という文言から,また堀先生の著作を購入することになり,現在,読ませていただいています。
月100~150時間ぐらい残業する僕は,なかなか自分の研究する時間を確保できなくて困っています。「学校五日制・教師の仕事術」が指針になりそうです。
スクール・カーストの中に出てきた「主張力・共感力・同調力」について今,考えています。共感力と同調力の違いがまだ僕の中では曖昧なので,考えを深めていこうと思っています。
風邪をひかれたとのことですが,4月5月の週末もセミナー関係でお忙しいご様子ですね。どうぞご自愛ください。
5月16日の「HOWからWHYへの転換」を受講させていただくことを,ゴールデンウィークよりも待ち遠しく感じておりおります。
投稿: 宮城の早坂です | 2009年4月10日 (金) 13時57分
おおっ!5月にまたいらっしゃるんですか?飲みましょう飲みましょう。またひとり、海を越えてやってくる「変人」が増えるのですね(笑)。
「黄金の三日間」はだんだん現在の子どもたちにあわなくなってきているのだと感じています。三日に詰め込むには、少々、無理のある子どもたちが増えてきたというか……。
投稿: 堀裕嗣 | 2009年4月12日 (日) 11時49分